Sports Graphic Number WebBACK NUMBER
「女子でも片手懸垂」はあたりまえ。
日本人クライマーの秘密の練習法とは。
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph byAFLO
posted2018/05/31 14:00
ボルダリングW杯 中国・泰安大会の表彰台に上がった、野中生萌(左)と野口啓代(中)。
体がタフになり、コメントも前向きに。
安井コーチが新たな試みと選手の限界値を押し上げる個別のトレーニングに手応えを感じたのが、今季のW杯2戦目のロシア大会だった。この大会ではボルダリングと併催されたスピードにも日本代表選手たちは出場。ボルダリングの準決勝後から決勝までの間を、普段なら体力回復に充てるが、ロシア大会ではスピード種目に挑んだ。
「選手たちは以前なら絶対に嫌がったでしょうし、今回もスピードの試合直前に『やっぱり止めようかな』と言い出す選手もいました。でも、出場してみたら思っていたよりも戦えたことで、試合後は前向きなコメントが出てきた。体がタフになったことで、気持ち的にも余裕が出るようになってきました」
体力を高める理由は、スポーツクライミングは4月から11月までのシーズン中に毎週末のように大会が行われることもある。ハードなスケジュールのなかで、トップ選手たちは試合に出場し続ける。「疲労を溜めにくい体をつくることでのケガ防止や、コンディションの良し悪しに左右されずに結果を出せる強さを求めている」と安井ヘッドコーチは狙いを明かす。
クライマーに必要なスキルとは。
ボルダリングジムは全国で飛躍的に増え、クライミングは以前よりも確実に身近なものになり、競技の認知度も高まっている。だが、実際に体験した人がまだ多くないのも現状である。クライマーに必要なスキルとは何かを、安井ヘッドコーチに解説してもらった。
「クライミングウォールとの接点は、指先と手の平、足先だけです。このなかで特に重要なのが指の保持力。指を鍛えるためにジムで登るだけではなく、家でも指先を引っ掛けるフィンガーボードを使ってトレーニングをします。指先でぶら下がって懸垂したりして、指の腱を鍛えます。トップクライマーだけではなく、一般のクライマーもこれをする人は多いです」
保持力が重視されるのは、ホールドを持つときは握力に頼るよりも、指先を曲げて力を入れて固めてホールドに引っ掛けているからだ。このとき指先の力が弱ければ、引っ掛けた指が開いてしまい、ホールドから離れてしまう。