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「女子でも片手懸垂」はあたりまえ。
日本人クライマーの秘密の練習法とは。
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph byAFLO
posted2018/05/31 14:00
ボルダリングW杯 中国・泰安大会の表彰台に上がった、野中生萌(左)と野口啓代(中)。
選手の身体能力は、片手懸垂20回!?
「最初はすべての指を使ってぶら下がり、懸垂したり、オモリをつけたりして鍛えます。負荷に耐えられるようになれば、指を3本、2本と減らしていく。強度の高いトレーニングですが、ボルダリングジムで難度の高い課題を登ろうとするなら、やっぱり肉体のトレーニングは必要になります。
懸垂もトップレベルの選手になると片手懸垂は普通にできますね。昨年のボルダリングW杯男子の年間王者のチョン・ジョンウォン(韓国)は、片手懸垂を連続して20回もできます。女子選手でも片手懸垂ができます。そうした局所的な強さと、競技に合わせた強さの両方を、クライマーはトレーニングしています」
保持力の強さは強傾斜で生きるが、バランス感覚の求められる緩傾斜で強くなるための練習もある。
「クライミングにはバランス感覚が必要ですが、平衡感覚とは異なります。平らなところで足の裏をベタッとついて立つわけではありません。目の前には壁があって足下を見られないなかで、爪先でピンポイントに立つ。
そのため床で鍛える場合は、爪先立ちの体勢で片足スクワットをする。それができるようになれば、バランスディスクのような不安定な場所で同じ動きをする。これをすることでバランス力に加えて、筋力もつけることができます。ちなみに、トップクライマーはみんな片足スクワットを簡単にやりますね」
背中を見ればクライマーはすぐ分かる。
こうしたトレーニングをするクライマーの体と、フィットネスジムなどで筋トレによって作った体では、「細かい筋肉に差が出る」と安井ヘッドコーチは指摘する。
「クライマーは肩甲骨などの大きな筋肉も発達しますが、その周囲にある小さな筋肉までしっかり発達しているのが特徴です。だから、背中を見れば、クライミングをするか、しないかはすぐわかるし、利き腕が右か左かもわかります。大会では選手がどれだけトレーニングを積んできたかも背中で判断できます。登りこんでいる選手ほど肩甲骨まわりや肩の筋肉が盛り上がっていますよ。
クライミングで強くなろうとしたら、指先の保持力に加えて、筋力もつけなければいけませんが、クライミングで必要な筋肉は動くためのものなので健康的な体になります。ただ、筋肉が発達すると柔軟性を欠きやすいので、選手たちは鏡を見ながら腕を上げたりして可動域のチェックは必ずします」