マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
菊池雄星と大石達也のブルペン観察。
ドラ1の速球は残酷に好対照だが……。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2018/02/13 07:00
南郷キャンプで順調な調整を進める菊池。大石らとの投げ込みを見られるのがキャンプならではの楽しみだ。
丹念に投げる大石の姿に残酷な気がしたが。
その右横、土俵入りなら露払いの位置で、小柄な右腕が投げ始める。
誰だろう、と思って背番号を見ると15とあるから、それなら「大石達也」なのだが、185センチ90キロのはずの大石が小さく見える。
フォームが変わったんだ……。
テークバックを小さくして、腕の振りもコンパクトになって、投げる姿の印象が小さくなったのだ。
ワセダで松下建太(現・西武サブマネージャー)や斎藤佑樹(日本ハム)や福井優也(広島)と一緒に投げていた頃は、150キロであり、ダイナミックであり、剛速球であり……それが大石だったのだが、今は丁寧に丹念に、狙ったピンポイントを突いていく。
隣りの雄星がブンブン飛ばしていく。遠慮も気遣いも、何もない。さあ、このスピード、見てみろ! と言わんばかりの飛ばしぶりだ。
ちょっと、いやなものを見たようにも思った。残酷な気がしたのも確かだ。しかし、プロはそれでよい。プロとは、優秀な個の集合体なのだ。
140キロ前後でも菊池のミット音と変わらない。。
一方で、大石達也はひたすらキチンと投げ進む。
スピードガンで計れば140キロか、そこまでいっていないかもしれない。
なのに、隣りで菊池雄星が投げ込んでくる“145キロ前後”の捕球音とそんなに違わない。
硬球の硬さがミットの革に当たる強い音。そこに、硬球の縫い目がめり込む音の濁りが混ざる。間違いなく、ボールの“生命力”が伝わってくる爆音だ。
大石達也の球筋がもっとよく見える場所に、立ち位置をずらす。
右手を振り下ろす位置が以前ほど高くないから、ボールが低く集まっている。
その低めがタレない。
ときおり捕手が高さを間違えて、ミットの芯を外している。伸びている証拠、もっと正確にいえば、終速が落ちていない証拠だ。
投げるフォームはコンパクトになっても、投げる“エンジン”の排気量は変わっていない。