スポーツに役立つ法律知識~教えてオジオ先生!~BACK NUMBER
プロレスラーが大怪我をした場合……。
いったい誰が悪いのか? 保険は?
text by
小塩康祐Kosuke Ojio
photograph byTomoki Momozono
posted2017/10/19 07:30
さまざまな対策がなされているとはいえ、格闘技の世界からこの問題が完全に消え去るのは非常に難しい……。(写真は記事内容と直接の関係がないイメージ写真です)
「正当」に殴って、「正当」に殴られている。
殴った選手は、ルールに基づいて「正当」に殴ったと考えられます。
また、殴られた選手は、ケガをすることを承諾していた、ケガのリスクがある競技の危険を引き受けていたという理論です。
このような理論がなければ、誰も対戦相手にケガをさせてしまうおそれのあるスポーツはしなくなってしまうでしょう。プロレスで、対戦相手を殴ったり、蹴ったりする度に損害賠償を請求されることがあり得ないことは当たり前と思うかもしれませんが、法律ではこのように考えられています。
もっとも、このような理論も無制限に認められるわけではありません。あくまでルールの範囲内の行為のみが許されるだけで、ルールを逸脱した行為は許されないのです。
したがって、対戦相手がルールを無視した暴力行為をしたような例外的な場合には、対戦相手に対する損害賠償請求が認められるかもしれません。しかし、そのような場合を除いて、対戦相手に対して責任追及をすることは難しいでしょう。
プロレスラーとは「労働者」と言えるのか。
例えば、会社員が仕事中にケガをした場合、労働者災害補償保険(以下、「労災保険」といいます。)の適用を受け、補償を受けることが考えられます。
プロレスラーの場合はどうでしょう。
プロレスラーにとって、試合は仕事そのものと考えられますし、労災保険の適用があると考えられそうです。しかし、労災保険は、その名の通り、「労働者」を対象とした保険ですので、対象者が「労働者」でなければなりません。
労働者とは、使用者との間に使用従属関係がある者と考えられています。
使用従属関係の有無については、勤務時間や勤務場所の拘束や報酬の性質等といった様々な点から総合的に判断されます。紙幅の関係で、今回の記事で、選手が「労働者」か否かについての詳細を説明することはできませんが、一般的に、プロレスラーは労災保険の適用を受けることができる「労働者」とは考えられないと思われることが多そうです。