フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
羽生結弦の不滅の名プログラム、
『SEIMEI』で再び五輪へ挑む理由。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto
posted2017/08/18 08:00
昨シーズンと比べても、一段とキレが増し、大人びた印象となった羽生。平昌五輪では1952年以来となる五輪連覇がかかる。
同じプログラムで完成度の高さを目指す。
トップ選手が五輪用に制作したプログラムがしっくり来ずに、シーズン半ばで以前のプログラムに戻したというのは珍しいことではない。
トリノ五輪女王の荒川静香も、五輪本番の直前、2年前に使って世界タイトルを手にした歌劇『トゥーランドット』の音楽『誰も寝てはならぬ』を使用し、振付を再アレンジしたフリープログラムで金メダルを手にした。
だが最初から、SP、フリー両方とも以前に使用した作品で五輪に挑むというのは、近年ではあまり前例のないことではある。
羽生本人は、その理由をきわめて明確に、そして率直にこう説明した。
「新しい曲を選んで、これやって、あれやって、とやるのは、結構難しいものがあるんです。毎年毎年。特にこのシーズンだからこそ、そんなことをやっている時間はない。それよりも演技そのものに集中したいんです」
「スタートラインを変えよう、と」
昨シーズンは羽生はSP、フリーともに新プログラムに挑んだだけでなく、SP、フリーともに4ループを加えるという大きなチャレンジを自分に課した。
最終的にはGPファイナルのタイトルを守り、世界選手権でも3年ぶりに優勝という結果を残したが、完成作品に仕上げるまでに時間も要し、苦戦したことは事実である。
その昨シーズンの経験があったからこそ、迷うことなく自分に最も合っていたと感じる過去のプログラムで五輪の勝負に挑むことを決めたのだろう。
「シーズン初戦とか最初のほうって、まだ新しいな、初々しいなという感覚ってあると思う。プログラム見たときに。これから滑り込んでいくんだろうな、という。今シーズンは、そんな状況ではいけないと思う。
(そこで)まずスタートラインを変えよう、と。
スタートラインがプラスの状態からはじまっているので、しっかりそれをマイナスにしないように、そこから積み上げるものを、もっともっとたくさん積み上げていけたらと思っています」
今シーズンのエネルギーは、新プログラムを作り、振付を覚え、こなしていくことには使わない。その代わり完成度の高い、レベルの高い演技を見せる。
潔いばかりの、勝つための戦略である。