Jをめぐる冒険BACK NUMBER
明神の隣で学び、石崎に鍛えられ。
大谷秀和が刻んだ柏での300試合。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/04/15 07:00
柏のバンディエラ、という言葉がしっくりくる大谷秀和。Jリーグで10年連続チームキャプテンというのは異例の存在だ。
「タニがやりやすいようにやればいいんだよ」
自慢の金髪を黒く染め、短くカットしたりもした。キャプテンとしてスポンサー企業の人たちの前に立って挨拶するのに、ロン毛の金髪では失礼だと考えたからだ。
「あえて自分にルールを課したり、ハードルを上げたりして、プレッシャーや責任を感じていましたね。でもあるとき、南さんから『タニがやりやすいようにやればいいんだよ』って言われて、それで、すごく楽になったのを覚えています」
キャプテンだからといって常に熱く、怒鳴る必要はない。無理に自分を変えなくてもいい――。そう悟った大谷は、自分なりのキャプテン像を築いていく。
2度のJ2降格を乗り越えて成し遂げた'11年のJ1優勝、キャプテンとしてシャーレを掲げた瞬間は、サッカー人生におけるハイライトのひとつと言っていいだろう。昇格初年度でのJ1制覇は、Jリーグ史上初めての快挙だった。
ネルシーニョのサッカーを実現した大谷の万能性。
だが、同じくらい強く印象に残っているのは、'13年のプレーだ。
ナビスコカップを制したこの年、柏は3バックを採用していたが、攻撃のビルドアップの際にはボランチの大谷が左サイドバックにポジションを移して攻撃の起点となり、敵陣に攻め込んだあとには、前線まで飛び出すことも少なくなかった。3バックと4バックのシステムを自在に使いこなすネルシーニョ監督の戦術を可能にしていたのが、ひとりで二役も三役もこなす大谷だった。
類まれなるポリバレントな能力と戦術眼の高さ――。サッカー選手としての円熟期を、まさに迎えているようだった。
「上手くなりたいとか、強くなりたいっていう気持ちが昔より強まっているんですよ」
今シーズンの開幕直後、練習場で聞いた言葉が強く耳に残っている。スタメンの平均年齢は24歳台。若返りを推し進めるチームにあって、32歳の大谷は大ベテランといった立ち位置だが、そうした扱いに抗うつもりでいるようだった。大谷のハートに火をつけたのが、昨年のチャンピオンシップであり、近年のJリーグMVPの存在だ。