酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
世界がやっと菊池涼介に気がついた。
データで見るNPB史上最高の守備能力。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/03/17 11:00
菊池涼介と坂本勇人が披露したグラブトスは、確実に大会のハイライトになるシーンだったが、彼はシーズン中これぐらいのことを何度もやる男である。
2013年は18個あったエラーが、2014年には4個に。
とはいえ、飛んでくるゴロをしっかり処理しなければ、補殺にはならない。様々な仕事を八面六臂でこなすやり手のサラリーマン宜しく、菊池は大量のゴロを処理し続けていた。
菊池のゴロ処理能力が注目されたのは2013年からだが、この当時「菊池はNPB最高の二塁手だ」とブログで書いたところ、広島ファンから「お前は試合を見ていないだろ」と言われた。
2013年は528個のゴロを処理したが、エラーも最多の18個。この年のエラー2位が規定試合数以上ではソフトバンクの本多雄一の9個だから、確かに多すぎた。
しかし、2016年は何と4個。規定試合数以上では最少タイ。守備範囲が広いだけでなく、ぎりぎりの球際にもめっぽう強くなっていたのだ。
内野手で最も広いエリアを守るのは遊撃手だが、菊池の守備範囲は遊撃手なみだ。一塁の後方から二塁の後方まで、幅広いエリアに網を張っている。
もう菊池涼介を「日本一の二塁手」と断言しても、だれも異論を唱えないだろう。
すでに菊池涼介の二塁守備は歴史的な次元に。
実は、二塁手菊池涼介はすでに歴史的な存在でもある。プロ野球が始まった1936年からの、シーズン補殺数の歴代ベスト5はこうなる。
1.菊池涼介(広島)2014年 535 144試合
2.菊池涼介(広島)2013年 528 141試合
3.菊池涼介(広島)2016年 525 141試合
4.荒木雅博(中日)2005年 496 145試合
5.千葉 茂(巨人)1949年 495 134試合
かつてのNPBの野球は三振が少なく、ゴロアウトが多く、長打も少なかった。1949年に千葉茂が記録した495補殺は、56年間も破られなかった。
フォークボールなど変化球が増えて奪三振が増え、長打も増えて、ゴロの数が減る中で、この数字はアンタッチャブルだと思われたが、2005年に中日の荒木がこれを更新。
中日のアライバコンビは、球史に残る名二遊間、井端弘和ばかりスポットが当りがちだが、荒木も驚異的な守備範囲だったのだ。
しかし2013年、23歳の菊池涼介はあっさりとこの記録を抜き去り、528補殺と言う異次元の領域に。2014年には535とNPB記録を更新。2015年には484補殺に減ったが、2016年、また525補殺を記録した。
NPBでは400補殺をクリアすれば、ゴールデングラブ賞に選ばれることが多い。2016年、山田哲人は417補殺を記録。菊池がいなければトリプル3、ベスト9に加えてゴールデングラブも当確だったのだが、菊池の前には沈黙せざるを得ない。
WBCでも山田はDHに甘んじているが、これは史上初の2年連続トリプル3の山田をもってしても、どうしようもないのだ。