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買い手市場のJトライアウトでも……。
長らくJ1で過ごした3人の男の挑戦。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byKyodo News
posted2016/12/14 08:00
盛田剛平は長らくJ1で過ごしてきた、まぎれもないトップ選手。彼のプロフェッショナリズムを必要とするクラブはあるはずだが……。
「サッカー選手でいて欲しい」という息子の一言。
キャリアの瀬戸際に立ちながら、斉藤は自分以外の選手にも心を寄せていた。ボランチとセンターバックをこなすユーティリティ性だけでなく、協調性と自己犠牲の精神に溢れる人間性も、ここまでキャリアを積み上げてきた理由である。
「若い選手中心へ移行しているチームは多いと感じますし、年齢で判断されるところも含めて、自分が置かれている状況は理解しています。そのなかでベテランの重要性というか、これまで培ってきたものを還元できると思っています。色々なことを伝えられます。高いレベルでサッカーを続けたいですが、チームの方向性と自分の価値観が合えば、カテゴリーにはこだわりません」
胸に刻まれた言葉がある。来春に小学生となる長男のひと言が、36歳の父親を衝き動かしている。
「家族のことを考えると、これからどうするのか、自分ひとりでは決められないところがあります。長女も生まれて10カ月ですし。指導者ライセンスはB級まで取っているので、育成組織のスタッフを目ざすというのも頭を過ったりして、トライアウトを受けるかどうかも実際はかなり悩みました。そういうときに息子が、『サッカー選手でいてほしい』とポロっと言ったんですね。それで背中を押されました。僕の仕事が何なのかも分かっていますから、プロとしての背中を息子に見せたい、簡単には諦められない、という気持ちです。息子に感謝ですよね」
ミニゲームでケガをしてしまう不運な選手も。
トライアウトに参加したものの、アピールが叶わなかった選手もいる。33歳の松下年宏だ。
ガンバ大阪、アルビレックス新潟、FC東京、ベガルタ仙台、横浜FCと所属先を変えながら、Jリーガーとして15年ものシーズンを過ごしてきた。ボランチとサイドハーフを主戦場とし、右足のプレースキックとハードワークを特徴とするMFは、11対11の紅白戦に先駆けて行われたミニゲームで右足のふくらはぎを痛めてしまったのである。
「すごく残念です。悔しいです。まだまだできるところをアピールしたくてこの場所に来たのに。自分のプレーはある程度分かってもらえているとは思いますけれど、新しい部分を見せられればという気持ちで来た。あまりケガをするほうじゃないのに、今日に限って……。残念です」
苦味をこらえるような表情になる。焦り、苛立ち、困惑、悔しさ──どれも、すぐには呑み込めない。