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井岡一翔、完勝でフライ級初防衛。
打たせず打つ戦術は“リングの解剖学”。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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posted2015/09/28 11:30

井岡一翔、完勝でフライ級初防衛。打たせず打つ戦術は“リングの解剖学”。<Number Web> photograph by AFLO

世界最速での3階級制覇を果たしたが、フライ級では長期政権の可能性も示唆している。

井岡の魅力は、無駄を省いた理詰めのスタイル。

 あらためて井岡というボクサーの個性を認識した一戦だった。いま国内には男子だけで9人の日本人世界王者がいるが、その中でも井岡のボクシングは実に個性的だ。極限まで無駄を省き、理詰めで対戦者を追い詰める。そのパフォーマンスを目にして解剖学という言葉を連想させるようなチャンピオンは他にいない。

 たとえば安定王者の内山高志(ワタナベ)や山中慎介(帝拳)、三浦隆司(同)はタイプこそ異なれども、いずれも対戦相手を失神させてしまうような豪快なノックアウトでファンを魅了する。若きスター、井上尚弥(大橋)であれば弾けるような躍動感とほとばしる野性がリングに輝きを放つ。言うまでもないのだが、井岡の魅力は彼らとは違うのだ。

 井岡は昨年5月、IBF世界フライ級王者のアムナット・ルエンロン(タイ)に敗れ、3階級制覇に失敗するとともに、プロ初黒星を喫する挫折を味わった。その後2つのノンタイトル戦では、相手のパンチを少なからずもらい、井岡らしからぬ姿を見せたものだった。

本来のボクシングが帰ってきた。

 3階級制覇を達成した4月のファン・カルロス・レベコ(アルゼンチン)戦では、無駄な被弾は見られなかったものの「やや消極的だったかもしれない」というのが本人の評。井岡のボクシングは、決してディフェンシブではないのだ。そして迎えた今回の一戦で、アムナット戦を機に狂いかけていた本来のボクシングが、まだ不完全とはいえ、だいぶ整備されてきたと感じさせた。

 倒し倒されの激闘や、問答無用で相手をキャンバスに叩きつけるようなノックアウトが面白いという考えに異論はない。しかし同時に、一見地味だと感じられるテクニカルな攻防、いくつものプロセスをへて生み出されるノックアウトもボクシングの魅力の一つであることは間違いない。

 後者の担い手は、日本人ボクサーであれば井岡が筆頭だ。次戦は年末が有力。次の試合でも己のスタイルをどこまでも貫き、そして今度こそは納得のフィニッシュを披露してほしい。

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