松山英樹、勝負を決める108mmBACK NUMBER

絶不調を脱するまでの1週間の会話。
松山英樹「やった! まだ練習できる」 

text by

舩越園子

舩越園子Sonoko Funakoshi

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photograph bySonoko Funakoshi

posted2015/08/12 10:50

絶不調を脱するまでの1週間の会話。松山英樹「やった! まだ練習できる」<Number Web> photograph by Sonoko Funakoshi

最終日はフィル・ミケルソンと同組でラウンドした松山英樹。絶不調と言っていい状態でも予選は突破し、最終日に順位を上げてくる。その地力は完全にトッププロのそれだ。

「不意打ち」の不調を1週間で立て直したという経験値。

 最終日。彼のポジティブ姿勢が調子を呼び戻しつつあった。フェアウェイを捉え、ピンそばに絡め、2連続バーディーで発進。グリーンを外しても執拗にパーを拾う小技の感覚も取り戻した。

 4アンダー66で回り、58位から37位へ上昇。

「ちょっと戻ってきたかな。この3日間悪かった分、気持ちは良くないけど、このスコアにつながっているのが良かった」

 やっぱりバーディーが一番、いいスコアが一番。安堵して笑みを浮かべた松山は、もう、いつもの松山に戻っていた。

 苦しんだ4日間。それでも「いい経験になった」と彼は言う。不調そのものは去年の春から夏にかけてすでに経験済みで、今週の不調は「去年ほど悩んだわけじゃない」。今週は何が苦しかったのか? それは「不意打ち」で、不調の原因も「何で?」と首を傾げる状態だったこと。ここ最近は少々不調を感じても「試合になれば、なんとなくバーディーチャンスに付けたりしてたので、ここまで苦しんだのは久々」だった。

 けれど、慌てず腐らず、ポジティブ思考と辛抱強さで、その「不意打ち不調」に立ち向かい、「1週間あれば直せる」という実例を作り出した。次にまた不意打ちに襲われたとしても、きっと自分は大丈夫だと思えるはず。そうやって1つ1つ歩んでいくこと。それを「経験値」と呼ぶのだろう。

「あんな下手くそな時間に回ったのは久しぶりっす」

 試合を終え、取材対応を終え、駐車場に向かって歩き出した松山が、せかせかしながら聞いてきた。

「今、何時っすか?」

「今は……1時10分」

「やった! まだ練習できる!」

 次なる全米プロの会場は、松山がまだ見たことも足を踏み入れたこともない英国風リンクス仕立てのウィスリングストレイツ。目の前の駐車場に停めてあるオフィシャルカーで空港へ直行し、ジェット機でひとっ飛びすると、時差で時計が逆戻りする分、夕方までにはコースに着ける。彼は咄嗟に、そう計算したのだ。もう、彼の心はすっかり次戦へと走り始めていた。

「今日は疲れてるんじゃないの? 今週はいつも以上に練習したでしょ?」

「いや、そんなことないっすよ。でも、ほら、(ラウンド後に)時間が(あったから)ね。あんな下手くそな時間(下位でスタート時間が早かったという意味)に回ったのは久しぶりっす」

 もう、あんな下手くそな時間に回る事態には陥るものか。彼の笑顔が、そう言っていた。

 シューズを履き替えながら車の荷台にちょこんと置いた彼の身の回りの小物類。高価なブランド品ではなく、オーガスタのロゴマークが光る縞模様だ。マスターズに勝ちたい。メジャーに勝ちたい。少年のころからの夢とロマンが消えない限り、松山は心をひたすら前に向け、三歩進んで二歩下がり、また三歩、そして二歩――。

 今週は今季最後のメジャー、全米プロ。彼が踏み出す歩幅は、今週こそ、きっと大きい。

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