ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
攻撃、守備、そしてサッカー観――。
アギーレと日本の間にある“乖離”。
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byTakuya Sugiyama
posted2014/10/16 10:40
ブラジルを前に、日本の攻撃は沈黙し、守備陣は蹂躙された。ベストメンバーだったらどうだったのか……、そう想像してしまうことは自然なことであるはずだ。
アギーレの守備方針に感じる、「師匠」の影響。
これまでの4試合を通じて、攻撃と守備の両面で彼のコンセプトのいくらかが明らかになった。
守備に関しては、師匠ともいえるボラ・ミルティノビッチの影響を感じる。ディフェンス構築の達人であるからこそ、コスタリカやナイジェリア、中国、イラクなど、ボラは短期間のうちにどの国でも目覚ましい成果をあげることができた。とはいえそのコンセプトは、日本のサッカーの概念とは180度異なるものである。
ブロックを維持して“動かない”守備。
数的優位を作って、人とボールにプレッシャーをかけるのではなく、ブロックを維持してスペースをカバーする。
言葉にすれば極めて単純だが、このやり方でボラは、フィリップ・トルシエ率いる日本が、圧倒的な攻撃力でライバルたちを粉砕した2000年レバノンのアジアカップ準決勝で、日本をあと一歩のところまで追い詰めた。高原や柳沢がDFを引き出す動きをしても、ボラ率いる中国は動かず日本のパスが守備網に引っかかる。かつてボラは、日本とアメリカが初めて対戦した'93年キリンカップの際、試合翌日に朝食を終えた宿泊先のホテルで私にこう言ったのだった。
「日本はここ(バイタルエリア)さえしっかり押さえれば、どんなにボールを回されても全然怖くないんだ」
香川や岡崎の存在が状況を進化させているとはいえ、全般的に見れば彼の言葉は今日でも十分な説得力を持つ。
また、2009年コンフェデレーションズカップでは、“動かない”イラクのディフェンスブロックが、スペイン流パスサッカーの攻撃力をそぎ落としたのだった。たった一度だけ、コーナーキックで3人並んだイラクのDFが、頭上を通過するボールをただ見上げるだけで何もしなかったために、スペインにヘディングシュートを決められて1-0で敗れたが、試合後の会見に現れたボラはまるで勝者のように振る舞い、われわれプレスも彼を心からの拍手で迎えたのだった。