野球善哉BACK NUMBER
1回表、5点ビハインドも関係なし!
大阪桐蔭、打撃戦で敦賀気比を撃破。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2014/08/24 19:30
試合の要所で必ず活躍した大阪桐蔭主将・中村誠。負けた敦賀気比の選手をして「ヒットの数はこっちが上だけど……。野球の質が違う感じがした」と言わしめた。
ノーガードで打ちあうような乱打戦に!!
先頭の1番・中村誠が左中間スタンドへ飛び込む本塁打を放って口火を切ると、峯本匠の四球と香月一也の右翼前安打、犠打で、1死二、三塁に。さらに、森晋之介が右翼線を破る適時打を放ち2点を返したのだった。
0-5が一転、2点差に詰め寄った。
さらに2回裏には、峯本が左中間スタンドに放り込み、同点に追いつく。
3回表に敦賀気比の御簗が、2打席連続となる右翼スタンドへの一発。大阪桐蔭は勝ち越されるが、そこからはノーガードで打ち合うかのように、両者が壮絶な打撃戦を繰り広げたのだった。
その乱打戦に、大阪桐蔭は勝つ。敦賀気比のエース・平沼に対して、6回途中にして9安打12点を挙げてKO。総力戦で見事に上回ったのだ。
「得点を取られることを覚悟していたとはいえ、5点を取られてベンチに帰ってきたときに、どういう声を掛けようか迷っていたところ、選手たちの表情を見ると『やってやる』というような顔をしていた。5点を取られて火が付いたんでしょうね。5点を先に取られていなかったら、こうはなっていなかったかもしれません。その中で、いきなり中村に一発が飛び出て、チーム全体が乗っていった」
西谷は、そう誇らしげに振り返ったが、大阪桐蔭が恐ろしいのは試合前の指揮官の言葉にあるように、得点を奪われることを想定しながら、この勝負に勝ったという事実だ。
圧倒的に強く、しかも絶対に諦めない“粘る”選手たち。
「粘り」という言葉を西谷は頻繁に使うが、これは、公立校や力で劣るチームなどが、強者に挑むときに使う「粘り」とはニュアンスが少し違う。しがみついて、けたぐって泥臭く勝利をつかむというよりも、むしろ、相手が音を上げるまで攻め続けるという意に近い。
大阪桐蔭には、他校がうらやむような将来性の感じられる選手がいて、練習にみっちりと打ち込める環境や時間が約束されている、というのはよく聞く話だ。だが、見過ごされがちなのは、大阪桐蔭は単に強いだけではなく、絶対に音をあげないしぶとさをも有している選手が多いということだ。
勝てない私学との違いは、点差が開いたときに見えるものだ。タレント性のある選手がいても、試合を簡単に投げてしまうチームだと勝利は拾えない。大阪桐蔭にはその弱味がなく、今日のように5点を先取されるような試合でも絶対に諦めることをしない。そこからでも十分に跳ね返せるという自負が、選手たちにも西谷の中にもしっかりとあるのだ。