野ボール横丁BACK NUMBER
特別扱いの終わりと、自力での一軍。
斎藤佑樹が遂に「高校時代」を超えた。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/07/18 10:30
昨年は一軍での登板機会は1度のみで、勝ち星は0。長らく苦しんだ期待値と現実のギャップを乗り越え、地道に力をつけて再び一軍での活躍を目指している。
「僕のこと、みんな精神的に強いって思ってますよね」
プロ3年目となった昨シーズンは、右肩関節唇の故障で、一時は野球ができなくなることも覚悟した。しかし、そこから這い上がった。そして今季、それなりに仕上げ、開幕一軍入りを果たした。おそらくあのまま上で投げ続けていても、そこそこの成績は残していたのではないか。が、ファーム行きを命じられた。
「僕のこと、みんな精神的に強いって思ってますよね……」
そうこぼすほど、精神的にはぎりぎりだった。それでも、斎藤はまた這い上がってきた。
二軍戦で、斎藤のように打たせて取るタイプの投手が結果を残すのは、じつは想像以上に過酷である。
日本ハムの二軍は現在、断トツの最下位だ。また「1年目から使って育てる」という育成方針を掲げているため、エラーが多い。7月15日時点でチーム失策数は98個と、両リーグを通じて最多。しかもファームは土のグラウンドが多く、なかなかゲッツーを取ってもらえない。しかし、そんな中でも斎藤は安定した成績を残した。
今回は「期待値」ではなく力だけで這い上がった。
誤解を恐れずに言えば、大学時代、プロ1、2年目と斎藤は特別扱いされていた。今持っている力というよりは、「期待値」でチャンスを与えられることが多かった。
だが、今回は違う。正真正銘、自分の力だけで這い上がってきたのだ。
今の斎藤のボールには、その自信が漲っている。7月12日の果敢にインコースを突く配球は、その表れである。
ただ、欲を言えばもう1イニング見たかった。
斎藤は確かに変わった。だがそれは、今までの斎藤よりはよくなったというだけで、それがプロの打者にどこまで通用するかはまだわからない。
大谷翔平のように160kmのボールを投げられるようになったわけではないのだ。
あと1イニング投げれば、斎藤がどこまで変わったか、もう少し見極められたのだが。
その楽しみは次回の登板までお預けである。