ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
「やっと向上心が英樹に追いついた」
石川遼、2年ぶりの1勝は理想の先に。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byKyodo News
posted2014/07/09 10:30
小田孔明とのプレーオフを制し、優勝した石川は、世界ランキングが76位に浮上し、全英オープン出場権獲得の可能性も出てきた。石川は記者会見で「全英は諦める状態でここに来た。今の段階では決められない」と語った。
「このままではアメリカで勝てない」
本格参戦初年度の昨季、レギュラーシーズンでのシード権確保に失敗し、下部ツアー選手との入れ替え戦を経て、やっとのことで今季の出場権を手にした。その経験は目先の1打、シードに必要な1ポイントの重要性を痛感させる要因になった。
しかし目先の1打や予選通過ばかりに気をとられることで、身体は自然と安全策を選ぶようになった。リスクを承知で、コースに攻撃的に向き合うことへの恐怖心が湧く自分に気づいていたのだ。
今季はPGAツアーで常に全体20位以内に入る精度を持つ125ヤード以内のショットにも、石川は弱点を感じていた。短い距離を残すと、意図せずオープンスタンスになってしまう悪癖を知っていながら、そこを「小手先で対応してきた」という。
「当たりの薄いボールが右に出たり、左に抜けて行ってしまったり」
持ち前の器用さで“なんとなく”寄せていたが、根本的な原因から目を逸らし、究明しようとしないから、重圧のかかる「ここぞ」という場面でミスが繰り返された。
「試合に出ると、基本よりも応用問題ばかり。でも自分には基本的なショット力が欠けている。それを変えるには時間がかかる。1週間休んですぐに変えられるわけではない」
来季のシードを確実にした春先から、薄々気づいてはいた。
「このままではアメリカで勝てない」
反復練習で、確固たる基本の動きを習得する必要があった。
練習ラウンドで感じた松山英樹との向上心の差。
石川の背中を、最後に押したのが6月のメモリアルトーナメントを制した松山だった。普通なら「オレも」と結果を求めて再び連戦に出そうなものだが、石川は違った。逡巡する思いは晴れ、帰国を決めた。
「あれが大きなきっかけになりましたね。『ああ、ダメだ。やらなきゃな』って。(米国で)練習ラウンドを一緒に回って近くで見ていると、僕と英樹とじゃ、向上心が違うと思った。
僕は『予選をどう通ろう』、『ポイントをどう稼いでいこう』と考えてばかり。例えばグリーン周りの構造を重点的にチェックして、コースのメモを書くことばかりを考えていた。でも英樹はそういうことはキャディに任せて、自分の技術を磨くことに徹している。それが一番印象的で。5月くらいに『ああ、英樹と自分はここが違うのかな』って」