Jリーグ観察記BACK NUMBER
小倉新会長の「Jリーグ秋春制」議論。
決定的に欠けているものとは何か?
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byMasahiro Ura
posted2010/08/30 10:30
FC東京の試合に訪れた「秋春制」を支持する小倉新会長(右)。選手としての経験がない異色の存在
日本サッカー界にとって、正の遺産になるのか、それとも負の遺産になるのか――。
日本サッカー協会の犬飼基昭前会長はあっという間に表舞台から姿を消したが、彼がぶちあげた「秋春制」というJリーグの改革案だけは、しぶとく生き残り続けている。後任の小倉純二会長も「経済状況や環境が許せば、今後5年から10年内に実行したい」と語り、積極的にこの問題に取り組むつもりだ。
しかし、依然として、雪の影響が予想されるJリーグのクラブやサポーターからは、反対の声が上がっている。当然だろう。話にちっとも具体性がともなっていないからだ。「日本代表のマッチメイクがしやすい」と言われてもクラブには関係のないことだし、「欧州リーグへの移籍の潤滑化」は逆にデメリットになりかねない。
クラブ側のメリットをあげるとすれば、夏場の試合を減らして、試合のクオリティーを高めることぐらい。乱暴な言い方をすれば、メリットとされることは、ほぼすべて「日本サッカー協会」にとってのものばかりなのだ。これでは「自分たちの力のなさを、Jリーグに責任転嫁しているだけでは?」という声があがっても不思議ではない。
秋春制の「秋春」とは具体的に何月を指すのか?
結論から言うなら、いつ開幕するかに正解はなく、春に開幕しても、秋に開幕しても、それぞれ長所も短所もあるのだ。だが、日本における「秋春制」の議論には、決定的に2つの要素が欠けている、と筆者は考えている。
1つ目は、表現の具体性だ。
「秋」を辞書で引くと、「9月から11月」とある。おそらく犬飼前会長は「9月に開幕して、5月に終了する」とイメージしていたのだろう。だが、通常ヨーロッパのリーグが開幕するのは7月~8月だ。ヨーロッパは「夏春制」と呼ぶべきで、「秋春制」ではない。
また、ドイツやスイスでは、雪や霜の影響を最小限に留めるため、約1カ月のウィンターブレイクを設けている。これも「秋春制」とは分けて考えるべきで、あえて表現するなら「夏冬・冬春制」となるだろう。
本気で開催時期を変えるなら、もっと具体的な日程とウィンターブレイクの有無がセットで議論されなければいけないのに、「秋春」というキャッチフレーズだけが先行している。だから、みんながそれぞれ異なることをイメージし、話がかみ合わなくなるのだ。