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世界最強チームに学ぶ、
組織の「強さ」と「脆さ」の鍵。
~日本vs.オールブラックス戦の前に~
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph bySports Graphic Number
posted2011/09/08 06:00
『オールブラックスが強い理由 ラグビー世界最強組織の常勝スピリット』 大友信彦著 東邦出版 1429円+税
ニュージーランドのラグビー代表チーム「オールブラックス」には、世界中のラグビーファン誰もが畏敬の念を抱く。ファンならずとも、試合開始前の儀式「ハカ」を目にしたことがあるかもしれない。
「世界最強」と称されるオールブラックスは、すべての国とのテストマッチに勝ち越し、他を圧倒する実績を残している。1871年以降の成績をもとにした世界ランクは当然、1位。日本は'95年のワールドカップで対戦し、17-145という史上最悪の敗北を喫している。
大友信彦氏は、そんなオールブラックスの強さに魅せられた一人だ。'87年の第1回大会で見せた圧倒的な迫力に衝撃を受け、4年に一度開催されるワールドカップの取材を続けてきた。いわばワールドカップを追いかける原点であるチームの、強さの秘密に迫ったのが本書である。
ここには日本でプレーする元オールブラックス選手、かの国でラグビーに携わった経験を持つ日本人、ライバルであるオーストラリアの選手らが登場する。
彼らの証言から見えてくるのは、ニュージーランド国内でラグビーが占める地位の高さだ。オールブラックスのスター選手として世界に名をとどろかせ、'07年から日本代表ヘッドコーチを務めるジョン・カーワンは言う。
「私の母は83歳だが、彼女の中にも歴代最高のオールブラックス・リストがある(笑)。ニュージーランドにはそういう人がたくさんいるのです」
ラグビー文化の成熟を証明する充実した育成システム。
オーストラリアの監督だった現サントリー・ヘッドコーチ、エディ・ジョーンズはこう語っている。
「オールブラックスの成績で国の経済まで良くなったり悪くなったりする」
こうした言葉の数々に、生活に根付いたラグビー文化、「(ニュージーランドの)宗教である」とも言われるほどのラグビーの存在の大きさ、オールブラックスへのこだわりの強さが浮かび上がる。
本書では、ニュージーランドの手厚い育成システムにも触れられている。国内に26の地域協会があり、各地域に年代別の代表チームが存在し、少年期なら体重別チームも編成される。各協会には充実した育成スタッフがいる。ある州には、タレントの発掘にあたるスタッフだけで40名もいる。充実した育成システムもまた、ラグビー文化の証明である。
その文化に触れた者たちの披露するエピソードも印象深い。