MLB東奔西走BACK NUMBER
メジャーで6番目に高齢の斎藤隆が、
一流の成績で戦い続けられる理由。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2011/09/05 10:30
ここまで22試合に登板し防御率2.33と奮闘している斎藤隆。なかでも8月は11試合に登板。その内、負け試合は2試合だけという“勝利の方程式”の一角を担っている
つい先日、トレード移籍後の心境を確認するため上原浩治投手と話をしていた時のことだった。いつしか話題が今シーズンの契約に含まれているインセンティブ条項に及んだ。この時点で来シーズンの契約が自動的に保証されるシーズン55試合登板にあと4試合に迫っていたのだが、上原の答えは以下のようなものだった。
「だからといって無難に4試合を投げればいいというわけじゃないんです。前から言っているように自分の場合は1試合1試合投げきること。その結果、54試合目でぶっ倒れても構わないと思ってやっています」
この言葉を聞いた瞬間、大袈裟ではなく身体の中を電流が駆け巡ったのがわかった。対峙する上原には悟られないよう話を続けていた。それは、マウンドに上がる度、全身全霊を注ごうとしている彼の一途な姿勢と、昨年から見てきた彼の投球が見事なまでにシンクロし、すっかり胸を熱くさせられてしまったのだ。
斎藤隆のメジャー1年目……己の全てをかけた、全力投球の日々。
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実は以前にも、これとまったく同じ感情の高ぶりを味わったことがある。2006年にドジャースに移籍した、当時メジャー挑戦1年目の斎藤隆投手に対してだ。
長年の夢だったメジャーのマウンドに立つことだけを目指して、FA権取得だけでなく、その翌年には自由契約になってまでメジャー挑戦を決意。しかし、36歳という年齢と横浜時代の終盤は故障が続いたことも影響し、ドジャースとマイナー契約するしかなかった。
だが開幕直後にメジャー昇格を果たすと、快進撃の好投を続け、シーズン中盤以降から負傷のエリック・ガニエに代わりクローザーとして起用される。チームのプレーオフ進出の原動力の1人となった。
その当時、斎藤がよく繰り返していた言葉が「僕を獲得してくれたチームに報いたいし、起用してくれた監督の思いに応えたい。自分の身体なんてどうなっても構わない。とにかくマウンドで自分のすべてを出し尽くしたい」だった。
この頃、斎藤の中では、メジャーのマウンドをある意味野球人生の集大成と位置づけており、翌シーズンのことなどまるで眼中になく、与えられた試合ごとに全力投球を続けることしか考えていなかった。それだけに彼のパフォーマンスは現在の上原と同様に、マウンドからその気迫がこちらにも伝わってきた。