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なでしこ達の実情は分かったが……。
米国の女子プロサッカーの現状は?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph bySports Illustrated/Getty Images
posted2011/08/22 10:30
ウエスタン・ニューヨーク・フラッシュ (WPS) に所属し、アメリカ代表チームで最年少となる22歳のFWアレックス・モーガン選手
円高に株安、とんと景気のイイ話を聞かない日本にあって、「なでしこジャパン」は例外になりそうだ。
まず、ワールドカップの優勝から1カ月が経ち、協会側も支援体制を強化し始めた。これまで月額10万円だった選手に対する助成金を、倍の20万円に増額。また、9月に中国で行われるオリンピック予選には、栄養スタッフが帯同することが発表された。
昭和の時代、オリンピックスポーツを支えてきた「企業アマ」制度は一部をのぞいて崩壊してしまったが、実績を残せばインフラは改善されていく。
少なくとも「なでしこジャパン」という代表チームについては、財政的に支援がケタ違いで増えていくのは間違いない。ただし、オリンピック予選を勝ち抜けば、という条件は付くのだが……。
企業の側から見れば、なでしこの価値は現在が沸点に近いが、オリンピックに出場が決まれば継続して支援することに意義を見出すことが出来る。オリンピック予選で負けてしまうと、一気に企業側の熱は冷めかねない。いまは「様子見」の状態なのである。
今後の財政的なインフラ強化の意味でも、オリンピック予選は重要な意味を持つだろう。
ただし、そういったムーブメントが「なでしこリーグ」まで波及するかというと、これはまた別問題になる。代表の名声を、クラブレベルに落とし込むのが経営的な課題といえる。
代表が強くないと競技自体の存在感をアピールできない。
いまの日本を見渡すと、「代表」が強くなければ、なかなか認識してもらえない。
名コラムニスト・山本夏彦はかつて「企業は広告しなければ存在しないも同然」と至言を吐いたが、いまスポーツの世界では、代表チームあるいはトップ選手が国際競争力を持たないと、競技自体がなかなか報道されなくなってしまった。特にその傾向は、いわゆるマイナー競技ほど強くなる(だから、オリンピックで結果を残せるかどうかは、マイナー競技にとって死活問題なのだ)。
そのあたりの事情は、実はアメリカでも一緒だ。
アメリカの代表チームは、1999年の地元開催での女子ワールドカップで優勝を飾ったが、決勝で中国を破った展開があまりに劇的だったので、その「遺産」がいまにも受け継がれている。
逆の見方をすれば、ワールドカップ以外での報道は極端に少なく、実は今回の大会で優勝することは、選手たちにとって経済的に潤うためにも非常に重要だっただけに、日本への敗戦は痛かった。