濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
K-1戦士がプロレスのマットに続々!
格闘技界に起っている“逆転現象”。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/07/19 10:30
6月に行なわれた、全日本プロレス両国大会でプロレスデビューした京太郎(写真右)。船木誠勝を相手にK-1ヘビー級王者がカポエイラキックを見舞う。京太郎は今後、本格的にプロレスへの参戦が見込まれている
最近、マット界で大きな流れが生まれつつある。より正確には、よみがえりつつあるというべきか。
それは、格闘家のプロレス参戦だ。
今年5月、後楽園ホールで開催された『ブシロードレスリング』には長島☆自演乙☆雄一郎が登場。佐藤耕平と対戦し、飛びつき回転十字固めで勝利した。6月にはZERO1で曙との“K-1タッグ”を結成し、大谷晋二郎・橋本大地組に勝利している。
昨年のK-1 MAX日本王者であり、大晦日には青木真也をKOして次戦が注目されていた長島だけに、プロレス参戦という選択はファンに大きなインパクトを与えた。
長島に続いて、6月19日の全日本プロレス・両国国技館大会にはK-1ヘビー級王者の京太郎が出場。船木誠勝と対戦している(羽根折り顔面締めでギブアップ)。
外国人選手では、ジェロム・レ・バンナとレイ・セフォーがアントニオ猪木率いるIGFに参戦している。同団体には、ピーター・アーツが出場するという報道もある。
“食っていく”ためのリングはプロレスが独占していた。
こうした流れは、オールドファンにはなじみのあるものではないだろうか。
'70年代から'80年代にかけては、格闘技からプロレスへ、というルートは珍しいものではなかった。レスリングの五輪日本代表から全日本プロレス入りしたジャンボ鶴田。ウィリエム・ルスカをはじめ、アントニオ猪木と新日本プロレスのリングで異種格闘技戦を行なった選手たち。近年では柔道世界王者・小川直也の例もある。
当時の格闘家にとって、プロレスこそが格闘技のプロとして“食っていく”ためのほとんど唯一の道だったのだ。
この15年ほどは、その流れが逆転していた。K-1とPRIDEの隆盛によって“格闘技で食う”ための場所が変わったのである。K-1やPRIDEでプロデビューした別ジャンルの大物を数え上げればきりがないほどだ。
プロとしての夢がなくなった、立ち技格闘家の選択肢。
しかし、PRIDEが買収され、K-1の大会数が激減。ファイトマネーの未払いすら表面化した現在では、再び“格闘技→プロレス”という流れに戻っている。それも、目立つのは立ち技格闘家のプロレス参戦だ。
総合格闘技には、PRIDEがなくなっても目指すべき道が残されている。いうまでもなくUFCだ。実力さえあれば、アメリカでビッグマネーを掴むことも可能なのである。
だが立ち技では、K-1が最大にして最高峰。ヨーロッパには『IT'S SHOWTIME』というメジャー団体が存在するものの、全盛期のK-1ほどには大会数、すなわち“仕事場”が多くない。そうなると、次の選択肢として浮上するのがプロレスというわけだ。