アテネ五輪コラムBACK NUMBER
【山本ジャパン、最後の挑戦】
選考結果の裏側で……
text by
木ノ原久美Kumi Kinohara
photograph byTamon Matsuzono
posted2004/07/28 00:00
男子日本五輪代表チームのメンバーが発表になった。
注目の24歳以上のオーバーエイジ選手は、MF小野(フェイエノールト)とGK曽ヶ端の二人。FW高原(ハンブルガーSV)は、再発した肺血栓塞栓症の回復に時間が必要として、日本サッカー協会スポーツ医学委員会からNGが出て、招集断念となった。
高原本人は順調な回復ぶりと五輪出場への意欲を見せていただけに、残念だったに違いない。しかも、ドイツで高原が明かしたところによると、彼自身は医学委員会の6人のメンバーの誰にも会ったことがなく、診察も受けたことがないという。
一般の医療の現場では、個々の患者のケースに医者が対応をしている。今回、高原というアスリート個人のケースを十分検証した上での医学委員会の決定だったのか、彼の担当医の見解はどう反映されたのか、疑問が残る。せめて、日本協会は今回のケースをさまざまな角度から見直して、今後の対応に生かして欲しい。でなければ、五輪という世界の舞台を諦めざるをえなかった、高原の無念は晴れないだろう。
さて、今回決定された18人のメンバーリストの大半は最終予選を戦った顔ぶれが中心になったが、ケガでその予選を見送りながら、その後に再招集されていたMF駒野(広島)が入った。チーム最年少のFW平山(筑波大)は、手元の資料によれば、1996年アトランタ大会に出場したMF松田の19歳4ヶ月を 2ヶ月下回る五輪大会出場になる。その一方で、最終予選組からはMF鈴木、MF山瀬(いずれも浦和)、MF根本(大分)らが外れた。
山本監督は、「一次リーグの3試合、その後を含めていろいろなシミュレーションをし、さまざまなバランスの中で考えた結果。勝つために必要な選手を選んだ」と話した。そこには、複数のポジションをこなせるかどうかという要素も求められていた。
この部分の実践チェックが、メンバー発表の2日前の7月14日に豊田スタジアムでのチュニジア戦(0-1負け)で行われた。山本監督は、普段では組むことがないような構成で、選手によってはこれまでとは違うポジションで起用して、彼らの対応を見た。
例えば、駒野を前半は右ウィング、後半は4バックの左サイドバックで、DF菊地を、前半は3バックの右、後半には4バックの右サイドバックでプレー。MF松井(京都)も、前半のトップ下から後半は左サイドへ移ってプレーさせた。
中盤の競争は、小野が入ることもあって熾烈だったが、松井が残った。複数のポジションがこなせ、また、自分で崩していけるタイプということが理由だろう。展開によっては、自力突破する彼の存在が生きることは十分あり得る。しかも、最終予選以降、松井にはしつこく相手に絡んで行くような、泥臭いプレーが増えた。その辺りも加味されたか。
チュニジア戦では、山本監督は選手の精神面もチェックしている。試合前に、「五輪に出られるか否かは選手にとって大きなこと」と話し、選手らに更なるプレッシャーをかけた。精神的に追い込まれた中で、選手たちがどうプレーをするのかを見るためだったという。
その作用と慣れないメンバー構成ゆえか、チーム全体で動きは硬く、選手によっては視野がいつもより狭くなり、目の前の対応で手一杯という感じの者もいた。だが、ハーフタイムで交替出場した4人の中の一人である平山は、ここで視野の広さとポスト役をこなせることを見せつけた。最終メンバーに残った18人+バックアップの4人の中で、唯一Jリーグでプレーしていない選手ながら、U-20やU-23代表で国際経験を積んできたことがプレーに出ていたようだ。
「選ばれたメンバーはこれがスタートライン。まだまだ本番で大きな仕事が残っている。それに向けて前へ進んで行って欲しい」と山本監督は言った。
時間的にぎりぎりのタイミングでの高原招集断念で、ゲームプランの修正を図らなくてはならなくなった。が、メンバーが決定して、戦術練習を徹底することができる。あとは、選手たちが今後合流してくる小野と、どれだけチームとしての動きを練っていけるかだろう。
現在のところ、小野の合流は8月2日から始まるドイツ合宿での見込み。それまでにチームは21日にソウルで韓国五輪代表、25日に長居でオーストラリア五輪代表、30日に国立でベネズエラA代表と強化試合を行なう。
山本監督は、「日本のサポーターにアテネで夢を持ってもらえるように、いい準備をしていいプレーを見せて、アテネ五輪へ向かいたい」と話した。
日本は8月12日にパラグアイ、15日にイタリア、18日にガーナと対戦する。