NBAの扉を開けBACK NUMBER

栄光と挫折の果てに――クリスチャン・レイトナーを見よ。 

text by

小尾慶一

小尾慶一Keiichi Obi

PROFILE

photograph byNBAE/gettyimages/AFLO

posted2005/01/31 00:00

 1992年、デューク大4年生フォワードのクリスチャン・レイトナーは栄光の絶頂にいた。チームはNCAA(全米大学体育協会)トーナメント2連覇を果たし、彼自身もジョン・ウッデン・アワードやネイスミス・アワードといったカレッジ界の優秀選手賞を総なめにした。大学在籍4年間で、平均16.6点、FG率57.4%、7.8リバウンド。総得点407点は、NCAAトーナメント史上最多得点だ。バルセロナ五輪では学生としてただひとり初代ドリームチームに選ばれ、マイケル・ジョーダンやマジック・ジョンソンらと共に金メダルを獲得している。同年のドラフトでは3位指名を受けて、鳴り物入りでNBA入りした。

あれから10数年。度重なるケガ、チームメイトやメディアとの不和、いくつものトレードを経て、36歳の彼はかつてのようなスター選手ではなくなっている。マイアミ・ヒートでの今季の成績は、平均5.9点、3リバウンド。皮肉なことに、チームの看板選手は、ドラフトの同期生で、初代ドリームチーム入りを争ったシャキール・オニールだ。

だが、そんな今だからこそ、彼のプレーを見る価値があるのかもしれない。試合中、レイトナーは積極的にスクリーンに立ち、主に他の選手の得点チャンスを作ることに専念している。ディフェンス時にはスクリーンアウトを怠らず、チームメイトが確実にリバウンドを取れるように身体を張る。どちらも数字には表れない地味なプレーだが、勝つために誰かがやらねばならないことでもある。傲慢で負けず嫌いな選手として有名だった彼が、光の当たらないところで黙々と身体を張ったプレーをこなしている。

現時点で、ヒートはイースタンカンファレンスの1位だ。13年のキャリアで、レイトナーは初めて優勝を狙えるチームにいる。他チームにいた頃と比べて、フロリダ州内に住む家族との距離もぐっと近づいた。プレー面でもオニールらを中心としたオフェンス・パズルにぴたりとはまっていて、フィールドゴールの確率はキャリア最高の58.1%。プレイオフに入り、スター選手へのディフェンスが激しさを増せば、彼のジャンプシュートが試合を決定付ける場面も多く見られるだろう。控え選手として脇役に徹するようになって、レイトナーはようやく望む環境を手にしたことになる。

カレッジ界のレジェンドは、どのような形でNBAでの選手生活を終えるのだろうか。1つ確かなのは、彼に限らず、ベンチで出番を待つ1人ひとりに栄光と挫折のドラマがあり、その全てが注目に値するということだ。スーパースターの煌めきに酔いつつ、その影に佇む選手たちを応援するのもNBAの楽しみ方のひとつである。

■カレッジ界で成功するには?

昨年、NCAAの公式HPでファン投票が行なわれた。NCAAトーナメント史上最高の選手をポジションごとに決める投票だ。選出された中には、カリーム・アブドゥル=ジャバーやアイザイア・トーマスらに混じって、レイトナーの名前があった。彼の407点(総得点)というトーナメント記録は当分破られることはないだろう。これを上回るには、平均得点を上げるだけでなく、たくさん試合に出なければならない。そのためには、大学に長く在籍して、毎年トーナメントを勝ち抜く必要がある(レイトナーはスターターとして4年連続4強に勝ち進んだ史上初の選手)。アーリーエントリーが続く昨今の状況を考えると、10年後に同じような投票を行なっても彼の地位は揺るがないはずだ。

バスケットボールの前後の記事

ページトップ