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From:パルマ・デ・マヨルカ(スペイン)「寝不足でも気分はハイ」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2004/08/30 00:00

From:パルマ・デ・マヨルカ(スペイン)「寝不足でも気分はハイ」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

アテネを出発するなり怒涛の強行軍。

でも、辛いどころか気分はむしろハイ。

やっぱり僕は普通じゃないのだろう。

 1日はなんで24時間なんだろう。32時間なら嬉しいのに。そんな思いを抱きながら、僕はパルマ・デ・マヨルカにやってきた。

 長い道のりだった。アテネの五輪コンプレックスで陸上競技を観戦して、ホテルに戻りシャワーを浴び、KLM機でアテネ空港を発ったのは2日前の未明、3時40分(中欧州時間では2時40分)。早朝6時にアムステルダムに到着すると、今度は、同じくKLMのニース便に乗り換えた。

 なぜニースなのか。海岸でトップレスの女性を眺めるためにやってきたわけではない。そこから電車で30分の距離にあるモナコで「スーパーカップ」を観戦取材するためにだ。

 対戦カードはポルト対バレンシアで、結果はバレンシアが2−1で勝利。

 この試合は、UEFAのお祭り的なイベント。「優勝」に特別大きな意義はないのだが、内容にスコア以上の開きがあったことは事実である。バレンシアは今季もやりそうだ。イタリア代表のコッラディ、ディバイオ、フィオレの3人を新たに獲得し、層がずいぶん厚くなった感じがする。前線で1−1の関係を結んでいたミスタとアイマールのコンビも健在だし、選択肢は布陣を含めいろいろある。一方のポルトはやや苦しい。バルサに移籍したデコの穴は大きいと思う。

 ともに新監督だ。バレンシアはラニエリで、ポルトはビクトール・フェルナンデス。色男である点も共通している。昨季まで、ポルトの監督だったモウリーニョもナイスな男で知られたが、ビクトール・フェルナンデスもルックスではちっとも負けていない。そっちの方面に話を脱線させれば、コッラディも悪くない。愛くるしいアイマールとは一味違う、モデル顔負けの二枚目だ。

 深夜12時半、ホテルに戻りテレビのスイッチを入れると、画面は運良くオリンピックの3位決定戦、イタリア対イラクの模様を映し出していた。昨日まで自分がいた場所が、遙か遠くの別世界のように感じられた。

 翌朝のフライトは朝7時。つまり一睡もしないで、ニースのホテルを後にした。2日間連続で布団の中に収まらなかったことになる。だから僕は、ボルドー行きのフライトに乗り込むと、即爆睡した。ニースから次の訪問地であるバルセロナに向けて飛ぶ直行便は満席で、やむなくボルドー経由でバルセロナを目指したわけだが、ボルドーに到着すると、とんだ迷惑が僕を待ち受けていた。眠い目をこすり、朦朧としながら、飛行機を降りれば、待ち構えていた地上係員が僕にこう告げたのだ。「スギヤマさんですね。貴方が次に乗り換えるバルセロナ行きはキャンセルになりました」。

 提示された新ルートは、パリ経由のバルセロナ行き。ニースからボルドー経由のバルセロナ行きでさえ、東京から大阪に新潟経由で行くような面倒なのに、さらにパリ経由が加わると、東京から新潟へ行き、さらに札幌を経由して大阪に行くのと変わらない話になる。ふざけるなエール・フランス!

 で、パリのシャルル・ド・ゴール空港に到着してバルセロナ便に乗り換えようとすれば、今度は手荷物が重いといって難癖をつけて来るではないか。本当にふざけるなエール・フランス。「僕はね、こんな最悪な空港(いろいろな意味で事実)に来たくて来たわけじゃないんだよ。文句をつけられる筋合いはない」。バルセロナ到着は午後3時過ぎ。ニースの空港を発ってから7時間も経過していた。

 バルセロナを訪れた理由は分かりやすい。スペインリーグ開幕戦を観戦取材するためだ。対戦カードはエスパニョール対デポルで、結果は1−1だった。何かを語る気が起きない凡戦。しかし、僕はまったくガッカリしなかった。むしろ感激しっぱなしでいた。舞台は「モンジュイック」。アテネの後に、’92年バルセロナ五輪のメイン会場を訪れた自分に酔いしれていた。

 あー懐かしい。12年前の光景が走馬燈のように蘇ってきた。岩崎恭子チャンの金メダルを見たのは、すぐ隣のプール。現場に日本人はとても少なかった。

大半は柔道会場に早くからスタンバっていた。金確実といわれた小川直也の無差別級を見るために。でも、僕は敢えて岩崎恭子に懸けた……。そして「勝った」。モンジュイックの丘はその時無風で、日章旗はポールに巻き付いたまま靡かなかった。真ん中の赤い丸を、形として確認することは出来なかった。空は青く、とても暑かった。

 試合後、知人と軽い夕食を食べ、ホテルに戻ったのは深夜の2時。3日ぶりにベッドに横になったのは朝方の5時。そして5時間の睡眠をとった後、再びバルセロナ空港を目指した。12時半発のパルマ・デ・マヨルカ行きの便に搭乗するために。

 マヨルカ対マドリー戦より、移動することへの興味がもはや勝っているような気がした。僕はそこへ行ってみるということに、どういうわけか異常に関心がある。それが叶えば、寝不足も苦にならない。というか、転々としていると、気分は妙にハイになる。アテネ〜アムス〜ニース〜ボルドー〜パリ〜バルセロナ〜パルマ・デ・マヨルカ。所変われば、気分も変わる。いつでも新鮮でいられる。僕に落ち着きがないのも、集中力がないのも、その辺りと大きな関係がある。で、マヨルカ島では、わざわざ町はずれの港町まで行き、しっかり美味しい海モノご飯も食べている。

 明らかに僕は普通じゃない。普通の人とは全然違う。そしてそのことについて、悩んだり、不安に思うことは全くない。人と同じが大嫌いな変人。なんで、僕のサッカー論も話半分に聞いた方が、身のためだと思う。つまり「今季もレアル・マドリーは危ない。日本代表もまた心配」は「危なくないし、心配じゃない」と考えた方がノーマルだ。でも、世の中はいまノーマルじゃないんだよなー、みんな早く気付いた方がいいよー、と言いたくなる僕もまたいるわけで……。

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