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イングランドに「春」は来たのか? 

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原田公樹

原田公樹Koki Harada

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2007/04/24 00:00

イングランドに「春」は来たのか?<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 最近、なんだかイングランド人たちが誇らしげだ。欧州チャンピオンズリーグ(CL)の準決勝に史上初めて、イングランドの3チームが進んだからである。

 そのうちのひとつ、チェルシーのジョゼ・モウリーニョ監督(ポルトガル)は「イングランドの3チームが準決勝へ進出するのは、驚嘆すべきことだ。すべてのイングランドサッカーのファンはこれを誇りに思うべし」と呼びかけた。

 同じくマンチェスター・ユナイテッドを4強へ導いたスコットランド出身のサー・アレックス・ファーガソン監督も「6、7年前はスペインのサッカーが最強だったと思う。だがイングランドサッカーが最強だということをこの結果が示した」と鼓舞した。これを真に受けた巷のファンは、サッカー界のボスたちがそういうのだから黄金期が来たのだろう、と喜んでいる。つい数週間前、イングランド代表が欧州選手権予選で苦戦していることにひどく落胆していたのとは対照的だ。

 メディアもこぞって「リバプールのベニテス監督が3度もレアル・マドリードからのオファーを断った」とか、「クリスチャン・ロナウドがレアルからの総額5400万ポンド(125億円)のオファーを蹴って、マンUと5年間の契約を更改した」と大々的に伝えている。おそらく、スペインのトップクラブよりもイングランドのほうが上だと喧伝したいのだろう。

 ある新聞は、こんなデータを載せていた。「欧州CL史上、同一協会から準決勝へ3チームが進出したことは過去2回ある。1999−2000年のスペイン(レアル・マドリード、バレンシア、バルセロナ)と2002−2003年のイタリア(ACミラン、ユベントス、インテル・ミラノ)だ。いずれも優勝チームを出している」。つまり今季はイングランドのチームが優勝する、といいたいらしい。

 たしかに今、イングランドサッカーに春は訪れている。リバプールに敗れて4強入りを逃したPSVのロナルド・クーマン監督は、皮肉まじりに理由を言い当てている。「イングランドのクラブは金があるから、いい選手といい監督が集まる。これが今季のような成功をもたらした」。この10数年、リーグ全体が商業的に成功し、各国代表のトップクラスの選手が、より高い給与と高いレベルのサッカーを求めてイングランドに集まった結果だというわけだ。

 さらに潤沢な資金を選手獲得の移籍金だけではなく、下部組織を充実させるために投資したことも成功の理由に挙げられる。世界中から有望な若手を集めて競わせたから、どこのクラブにもスーパースター予備軍が溢れている。試合途中から、大きい背番号の選手が出てきて実にいいプレーをするため、こちらが慌てて「あれ誰?」と隣の地元記者に聞くこともよくある。

 国際的な監査法人デロイトが毎年、発表する世界サッカークラブ長者番付を見れば、イングランドの成功は歴然だ。上位20クラブの内訳は、イングランドが8クラブ、以下イタリア4、ドイツ3、スペイン2、フランス、ポルトガル、スコットランドがそれぞれ1。イングランドは強豪クラブだけでなく、リーグ全体が潤っているのである。

 しかし見逃してはならない事実がある。イングランド人の比率は「32%」しかない、という点だ。これは欧州CL準々決勝でイングランドの3クラブが戦った計6試合中、先発したイングランド人選手の割合である。この10年間で、プレミアリーグでプレーするイングランド籍の選手は半減したといわれる。強豪になればなるほど、その割合は高まる。

 つまり今イングランドに訪れている春は、イングランドの「クラブ」が欧州を席巻した結果であって、必ずしもイングランド人が欧州一になったわけではない。さらにいうなら、4強入りしたイングランド3クラブの監督は全員イングランド人ではないし、プレミアの20クラブ中、すでに7つのクラブは外国人実業家がオーナーだ。

 イングランド人が時代の寵児になったわけではないことは、代表の結果からも明らかである。欧州選手権予選ではマケドニアと引き分け、クロアチアに敗れ、万を持して臨んだイスラエル戦でも引き分け、本大会進出が危ぶまれる状況になった。リーグの多国籍化により、イングランド人の有能な若手が育ちにくい環境になったことが理由のひとつだろう。

 それなのに3つのクラブがCLの準決勝に進出したことで、イングランド人たちは無邪気に喜んでいる。これは浅はかなのか、あるいは国際化を許すイングランド人の寛容さの表れなのだろうか。

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