野球善哉BACK NUMBER
オリックス・坂口智隆にみる、
誇り高き“イチローイズム”。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2009/09/16 12:00
シーズン終盤、クライマックスシリーズ(CS)進出の可能性がなくなったチームの選手たちは、何をモチベーションにプレーするのだろうか。たとえ試合に出たとしても、彼らが高いレベルのパフォーマンスを発揮できないのも無理はない。
しかし、どんなチーム状況でも、トップパフォーマンスを見せている選手がいることを見逃してはいけない。
オリックスの若きリードオフマン・坂口智隆である。
9月10日対楽天戦。2対5で迎えた9回裏、試合の行方は決まったという空気がスタジアムを支配するなか、走者を還すセンター前ヒットを放ったバットコントロールにはうならされたものだ。さらに、次打者・阿部の初球に盗塁を敢行し、成功させている。CS進出がかなわないチーム状況、敗色濃厚の空気の中でも、トップパフォーマンスを追い求める坂口の姿勢に、プロフェッショナルとしてのプライドを見た。
オリックスの中でもここ10年で一番期待できる選手。
今シーズンのこれまでを振り返ってみても、坂口のプレーには一度も落胆させられたことがない。この日の観戦を含めて、結果的にほとんど負け試合ばかりを見ていることになってしまっているのだが、観戦を後悔したことは一度もなかった。坂口が常にプロフェッショナルでいてくれるからだ。
「ここ10年くらいを見渡しても、オリックスの中で一番楽しみな選手ちゃうかなぁ」という声を、オリックスを撮り続けて15年を超えるあるスポーツ・カメラマンから聞いたが、それも納得である。
坂口のバッティングで気になる部分がある。「読んで打つタイプではない」という坂口は、来た球に対して体の反応で打つ。彼のバッティングフォームで注目してほしいのはそのフォームではなく、顔の位置。もっといえば目の位置である。全く動かないのだ。「うまい選手は目でボールをさばき、目でボールを打つ」と表現されるが、坂口はまさにそれを体現する選手である。右肩にアゴを乗せるかのように構え、足を上げて、体重移動に入る過程で顔が一切動かず、姿勢は常にまっすぐ保たれている。
どんな投手でも苦にしない柔軟なバッティングセンス。
だから、変化球であろうがストレートであろうが、また、相手が右投手であろうと左投手であろうと関係なく打率を残している。「右投手も左投手も、来た球を打つことには変わらない」と本人も言っている。
この日の試合では、1死二塁で回ってきた第2打席、ストレートをファールにしたあとの3球目、相手左腕・藤原のカーブを手元に呼び込んで、レフト線にはじき返すタイムリーヒットを放った。先述した最終打席のタイムリーヒットはストレートを打ちにいきながら、インコースのカットボールを見極め、その次の外に沈む変化球をセンター前へはじき返した。いずれの打席も高いバッティングセンスを感じさせるものだ。