セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
中田VS.俊輔「10番」対決。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2004/11/05 00:00
10月27日、中田英寿対中村俊輔の「ナカナカ対決」がグラニッロ・スタジアムで行われた。ナカタとナカムラにとっては、チームを勝利に導くためだけではなく、サポーターから「10番」を背負うにふさわしい選手として認められるためにも、絶対に負けられない試合だった。日本代表のジーコ監督も再三口にしているように、セリエAでは最初が肝心。チームの中核であることを義務付けられる中田と中村にしてみれば、たとえシーズン序盤であっても、「先は長いから」という甘えた考えを持つことは許されなかった。
結果的には中田が所属するフィオレンティーナが逆転勝ちしたが、日本人同士のファンタジスタ対決は、セリエA、そして日本サッカー界の未来が好転する兆候をみせてくれたと思う。
開幕からずっと調子が上がらず、不要論まで浮上した中田だが、レッジーナ戦では「より多く、攻撃に絡む」の信念に基づき、勝利の条件である「チームメイトを生かすこと」を念頭に置き、中盤とストライカーとの間のバイパス役に専念した。翌日のイタリア紙は中田を「トニコ(押しが利く)」とし、その労をねぎらった。
一方、レッジーナのエース・中村は、チームメイトからの絶対的信頼の下、すべてのパスが中村を経由すると言っても過言ではないくらいに、持ち前のアイディアあふれる攻撃センスで相手のディフェンスを威嚇した。
この試合において中田と中村のプレースタイルは対照的だったものの、「10番」を強く意識した動きを披露することにおいては共通していた。
ところで、ここでセリエAの「10番」に課される条件をアトランダムに並べてみる。
1=点取り屋であること、2=テクニシャンであること、3=チームの中核であること、4=強靭なフィジカルをもっていること。
これらはなにも定義付けられているわけではないが、歴代の「10番」、例えばリヴェラ、プラティニ、ファルカン、そして天才・マラドーナやイタリアの至宝・バッジョらが備えていたことから、いわば、必要絶対条件になっている。イタリア人記者の評価は手厳しいものの、中田も中村も1以外はクリアしているので、「10番」の器に値するといえよう。しかし、そんな技術面以上に不可欠なのは「求心力」という要素である。つまりピッチの外での人間性が、ある意味で「10番」のバロメーターになっている。
特にフィオレンティーナにおいては、歴代の「10番」はそれぞれ「求心」の達人だった。アントニョーニは謙虚な人柄が好感を呼び、バッジョは話術に富んでいた。ルイ・コスタにいたっては、記者からの質問を拒否したことがないほどで、その寛大な性格が愛された。
「10番」はファンタジスタの証である以上に、チームの「顔」でなければならないと地元記者は指摘する。「中田も『求心』の重要性を心に刻んでくれればいいのに」と、記者たちは、「10番」の心得を中田に望む。
多くの記者が中田に不可の評価を与える「求心力」について両日本人選手を比較してみると、この試合のあとの会見で敗戦の理由を適切に語った中村の方が上のように思える。頑なに口を閉ざすことが美徳と考える中田に比べ、素直な性格の中村は、セリエAで求められる「コミュニケーションの巧みさ」を十分に満たしている。「チームメイトが責任を押し付けるかのようなパスを(ぼくに)出す」とエースナンバーを付けているがゆえの「性(さが)」を自覚する中村は、「10番」に相応しいジョカトーレだと感じた。
今回の「ナカナカ対決」。プレーの面では甲乙付けたがいが、「求心力」では中村に軍配が上がったと言えよう。