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M・シューマッハーに勝つために。 

text by

今宮純

今宮純Jun Imamiya

PROFILE

posted2004/10/07 00:00

 バルセロナ郊外にあるカタロニア・サーキット。今年はいつもより風を冷たく感じたシリーズ第5戦スペインGPである。

 僕は5月8日(土)、フリー走行4回目を、新しく改修されたラ・カイシャ・ヘアピンで見ることにした。ここは510mミドルストレートを全力加速してきて、約290㎞/hから約80㎞/hまで減速して左にきつく曲がりこむテクニカルなスローコーナー。ブレーキングの正確さやコーナリング能力、立ち上がりの加速挙動などがチェックできる。

 コースサイド立ち入り許可証をつけ、3m脇に立つ。コースマーシャルの指示に従うが、最終的には自己責任ということになっている。

 M・シューマッハーがヘルメットのバイザー越しにこちらを睨むように通過。ブレーキングそのものはやや早め。いや、コーナーの手前で減速完了しておいてから、出口スピードを意識してアクセルオンに移るのを早めにしている。ベストタイムは1分15秒025。

 佐藤琢磨は前日、クラッチ・トラブルのせいで午後のフリー走行をたった4周しかできなかった。そのため2日目にやるべきセッティング・プログラムが山のようにあり、この日は頻繁にコースとピットを往復。連続周回がなかなか見られない。こういう場合はピットアウト周回からどれだけ積極的に攻めてくるかに注目する。時間がないわけだから寸秒を惜しんでトライしなければならない。ドライバーの気構えが分かるのだ。

 今年はより一層、彼のブレーキング・テクニックに磨きがかかってきた。5m、いや1mでも奥まで突っ込もうとする気力が、コース脇3mにいるとダイレクトに分かる。その風を感じ取れるからである。

 「オッ、今のは?」

 終了間際になって、彼のB・A・Rホンダの発するTCS(トラクション・コントロール・システム)が作動したときのエンジン音変化が、それまでと違った。コーナリング維持スピードが高く、ベストラインをキープして旋回でき、立ち上がりのアクセルオンが早めでかつ強い。TCS制御機能のチューニングも決まったように感じられた。

 すぐに僕は、コントロールラインの先にそびえ立つ“順位表示タワー”に目を向けた。

 『1位、カーナンバー10』

 佐藤琢磨が、今年初めてF1でトップタイムを記録した瞬間だった。1分14秒836。M・シューマッハーを0・189秒リード。

 これは予選でもレースでもないフリー走行ではあるが、トップはトップ。ガソリン量やタイヤ、他の条件うんぬんがあるにせよ、遅い車、遅いドライバーではカタロニア・サーキット・1分14秒台突入は不可能だ。

 結局、彼が記した1分14秒836は今年のスペインGP3日間の堂々ベストタイムとなった。予選2回目にポールポジションを得たM・シューマッハーは1分 15秒022。琢磨は、その予選で強い風もあって、ラ・カイシャ・ヘアピンから最終コーナーを慎重に行かざるを得ず、3位1分15秒809に終わった。

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