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元広島のルイスが育児休暇第1号!
MLBで増える労働者の様々な権利。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph bySports Illustrated/Getty Images
posted2011/05/05 08:00
広島カープ時代には、最多奪三振賞やオールスター選出なども果たしており、カープファンからは「神様、仏様、ルイス様」とまで言われたコルビー・ルイス。2010年シーズンにはメジャー復帰し、レンジャーズのリーグ優勝に大きく貢献した
“paternity leave(父親産休)”という一般名詞もある!!
ただし、今回の育児休暇制度の発足は、権利拡大だけではなく、「社会の要請」といった面が大きいと思う。
私からすれば、アメリカに“paternity leave”という「男性の育児休暇」を意味する名詞が普通に存在していること自体、驚きである。それだけ、アメリカでは男性が育児に参加することが当たり前になっているということを示していると思う。
これまでも「出産に立ち会うために今日はチームを離れている」ということは実際にあった。しかしそれは選手が監督に申し出て、それを監督が承認するという形を取っていた。だから、申し出ても立ち会えない選手もいた。ジョー・トーリの本を読むと、ヤンキースの監督時代、クローザーのマリアーノ・リベラが立ち合いを希望したところ、「遠慮してくれないか」というエピソードが出てくる。リベラはチームにとってなくてはならない存在だから、我慢して欲しいと告げたというのだ。
トーリは管理者として仕事を優先させたのである。これもひとつの考え方である。
しかし今回の制度が始まって、選手は最大で72時間、チームを離れる権利を手にした。球団側にもメリットがあって、以前は選手がチームを離れても選手の補充ができなかった。今回からは、短時間ではあるがマイナーから選手を呼ぶことも可能になった。
つまり、選手、球団にとってもメリットのある制度といえる。
社会的な影響力の大きいプロ野球界でもいつの日か……。
日本でも出産後は数日間、父親が休暇を取ることが可能な企業がいまは多いはずだ。しかし、日本のプロ野球界が育児休暇制度を発足させるとなると、まだまだ時間がかかりそうな気がする。
横浜の村田修一選手には『がんばれ!! 小さき生命たちよ』(TBSサービス)という著書があるが、この本では村田選手のお子さんが早産で生まれ(わずか712g)、新生児集中治療室に入るところから本がスタートするが、ちょうど村田選手はキャンプ中で監督に許可をもらって横浜に帰る様子が記されている。
もし、育児休暇制度があったなら、余分なストレスを感じずに奥さんや子どものところに帰れただろうに――と考えたりもした。
昭和の時代と違って、女性が働くことが増えた平成。その分、父親の育児への参加が求められるが、さて、プロ野球界はいつ制度を導入するだろうか?
注目度が高い業界が導入すると、社会的な影響力も大きいのだが――。