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実は斎藤佑樹は「持っていない」!?
蹉跌からの本領発揮を期待する理由。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/04/11 10:30
東日本大震災のためのチャリティーゲームの試合開始前の風景。田中と共に立って募金活動に精を出した斎藤
斎藤佑樹は、持ってない。
私もそう思った。
先日、日本ハムの斎藤が阪神とのオープン戦で、3回9失点で降板した日の夜のことだ。ちょっとした用があり、斎藤の恩師である早実の監督、和泉実と電話で話をした。そこでそんな話になったのだ。
和泉はどんなときでも斎藤のことを客観的に見られる、稀有な存在である。どんなにいいときでも買い被ったりはしないし、どんなに悪いときでも斎藤の可能性をどこかで信じている。その和泉は言う。
「高校時代、斎藤が持ってると思ったこと、一度もないんだよね。大学時代は知らないけど。少なくとも、高校のときは、失敗を繰り返し、そこから少しずつ成長していっただけだと思う」
「本当に持ってたら1年生から甲子園に出てる」と早実監督。
斎藤が劇的な全国制覇を成し遂げた2006年の夏――。
あれは言ってみれば2時間の「映画」だった。高校時代における、斎藤の見どころを凝縮したものに過ぎない。
だが、おもしろい映画であればあるほど、それ以外に、その何百倍ものカットされた、単調で、つまらない映像があるものなのだ。私たちはそれを知らないから、簡単に「持っている」などと言いたくなってしまうのだ。
和泉は続ける。
「本当に持ってたら、斎藤も1年生のときから甲子園に出てるでしょう。本当に持ってるっていうのは荒木(大輔)みたいのを言うんだよ」
荒木はご存じの通り、早実時代、1年夏から5季連続で甲子園に出場し「大ちゃんフィーバー」を巻き起こした、元祖「早実のアイドル」である。
私は「持っている」という曖昧な表現自体、抵抗を感じるのだが、もっとはっきり「運命を持っている」という意味で言えば、真っ先に思うのは、斎藤の同級生である楽天の田中将大の方だ。