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「自信満々なルーキーは褒めちゃダメ」な理由は?…ベテラン記者がキャンプで見た“ブルペン捕手”のすごさ「いい音で捕ればいいってものでもない」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2024/03/10 17:00
ブルペンキャッチャーの存在は投手の成長にとっても大きな影響があるという(※写真はイメージ)
キャンプ以降も、シーズン通じて、投球練習のブルペンで捕手をつとめる「キャッチングのプロたち」である。
じっくりと時間をかけて見ることのできたオリックス・キャンプのブルペン。2人のブルペンキャッチャーの捕球技術に、目を奪われた。
杉本尚文捕手(177cm80kg・徳島・池田高)に、比屋根彰人捕手(180cm96kg・静岡・飛龍高)。
お二人とも捕手としてオリックスに入団し、何年かの選手生活を経て、球団スタッフとしてのブルペン捕手に転身された。比屋根捕手はプロ経験7年、杉本捕手に至っては、選手、スタッフ通じて、今季35年目を迎える。
ホームベースの後ろに腰を落として、ミットを構える。その姿が美しい。人がミットを構えているのではない。ミットを構えている杉本捕手、比屋根捕手自身が「ミット」になっている。
左ヒザを地面に突き、気持ち背中を丸めるようにしてミットを構える左腕の角度はきれいに90°。その姿全体が、そのまま「1個のミット」になって、そこに白球が糸を引くように吸い込まれ、なんともいえない痛快な捕球音が響きわたる一瞬は、胸がふるえる思いだ。
そんな現場に立ち会いながら、思い出した話がある。
「いい音で捕ればいいってもんでもないんですよ」
私は以前、本職の「ブルペン捕手」の方から、話を聞いていた。
「いい音で捕ればいいってもんでもないんですよ。この仕事してる者ならたいていは、投げ損じたボールもいい音たてて捕るぐらいの技術は持ってますよ。でも、それじゃ、仕事になんない」
投げ損じは投げ損じらしく、それなりの捕球音でないとダメだという。
「ピッチャーは、私たちの捕球音で<答え合わせ>をするんです。投げ損じたと思ったボールがいい音たてたら、混乱するでしょ。答え合わせにならない」
特に、一軍投手の場合は、キャッチングが上手すぎると、嫌がられたりすることがあるという。投じられたボールの結果を、正確に捕球音に置き換えることが要求される。
「一軍投手は、軽く投げても生きたボールが来る。立ち投げから、そうです。これを捕り損なわないこと、これが難しいんです。軽く投げたボールでいい捕球音出せれば、一人前に近い」
ならば、ファームの若い投手たちはどう捕るのか。