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「今日に限っては井上尚弥を超えた」大橋会長も絶賛…井上拓真はなぜ“覚醒”できたのか?「過去イチの相手」を悶絶させた鮮烈KOのウラ側

posted2024/02/26 17:00

 
「今日に限っては井上尚弥を超えた」大橋会長も絶賛…井上拓真はなぜ“覚醒”できたのか?「過去イチの相手」を悶絶させた鮮烈KOのウラ側<Number Web> photograph by Naoki Fukuda

世界王座防衛9度の強豪ジェルウィン・アンカハスのボディを攻める井上拓真。「過去イチの相手」を自身5度目のKOで撃破した

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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Naoki Fukuda

 WBAバンタム級タイトルマッチが2月24日、両国国技館で行われ、王者の井上拓真(大橋)が挑戦者のジェルウィン・アンカハス(フィリピン)に9回44秒KO勝ち。自らの殻を破る会心の勝利でベルトを守った。

過去最強の相手を前に「変わった姿を見せたい」

 過去イチの相手──。

 試合前に拓真が繰り返した言葉は大げさではなかった。挑戦者のアンカハスは1階級下のスーパーフライ級でIBF王座を9度防衛した強豪。2022年に王座から陥落したものの、本人は「減量が問題だった」と敗因を語っており、階級アップがプラスに働くことも十分に考えられた。

 どのチャンピオンにも言えることだが、長くトップを走り続けてきた選手だけが醸し出せる余裕がある。場数を踏んできたアンカハスは公開練習でも、記者会見でも、常に貫録を感じさせた。公開練習を視察した大橋秀行会長は「長く見てきたから分かるけど、あの雰囲気がね」と渋い表情を浮かべたものだ。

 しかし、今回の拓真には決意があり、覚悟があった。拓真が繰り返し口にしたセリフがもう一つある。

 変わった姿を見せたい――。

 多くのボクサーが「変わりたい」と思ってトレーニングに励む。ただ、「変われた」と手応えをつかんでも、それを試合で発揮するのは容易ではない。拓真は「変わる」の具体的な内容を「より攻撃的に」と話していた。その変化が吉と出るのか、凶と出るのか。結果は拓真の実行力にかかっていた。

「偉大な兄と比べられる。兄弟である以上は…」

 試合は静かに立ち上がった。小刻みに上体を揺らし、脚を動かす拓真が動なら、左構えでじっくり構えるアンカハスは静という印象。アンカハスは何度か左を打ち込むが、拓真の反応は速い。初回終盤、拓真の左フックがアンカハスをとらえた。

 拓真の持ち味はなんといてもスピードに裏打ちされた打たせないディフェンス力だ。アンカハスは拓真のスピードについていけず、拓真も序盤は踏み込んだ攻撃ができない。局面が大きく変わったのは4回だった。アンカハスはこのままでは拓真をつかまえられないと判断したのだろう。ガードを固めてググッと距離を詰め、接近戦を選択したのである。

【次ページ】 「楽しさがあった」打ち終わりには笑顔も

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