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「神にはなれなかった」けど…“山の妖精”城西大・山本唯翔「花の2区」志願も5区を選んだナゼ…心に響いた櫛部監督の説得《箱根駅伝MVP》

posted2024/01/10 06:02

 
「神にはなれなかった」けど…“山の妖精”城西大・山本唯翔「花の2区」志願も5区を選んだナゼ…心に響いた櫛部監督の説得《箱根駅伝MVP》<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

雨中の5区で昨年に続いて区間新記録をマークし、大会MVPに輝いた“山の妖精”こと山本唯翔 

text by

酒井俊作

酒井俊作Shunsaku Sakai

PROFILE

photograph by

Nanae Suzuki

第100回箱根駅伝で大学史上最高順位となる3位に食い込んだ城西大学。大躍進の原動力に挙げられるのが、不動のエースである山本唯翔(4年)と、チームに関わって23年になる櫛部静二監督の存在だ。彼らはいかにしてチームをここまで導いてきたのか。その秘密に迫った。(全2回の第1回/#2「監督編」に続く)

「山の妖精」が栄えある箱根駅伝100回大会のMVPに輝いた。5区の区間新記録をマークした城西大学の山本唯翔(ゆいと)である。

 アスリートのニックネームは人となりを表していて味わい深い。ウルフといえば千代の富士で、ゴジラは松井秀喜で、キングは三浦知良である。一方で、イチローや大谷翔平、三笘薫にニックネームがないのは不思議だが、それはそれとして納得できる。

 さて、「山の妖精」である。

 1年前、5区の山上りで激走する山本唯に、櫛部静二監督が「山の神にならなくていい。山の妖精になれ」と声かけしたのが“命名”のキッカケだった。剛健な山上りのイメージとはかけ離れたチャーミングなニックネームだが、圧倒的な結果を残し、代名詞になった。

 自分の名前に冠がついた。だが、話題が先行して周りの期待感にあおられれば、まだ22歳の若者が自分を見失わないとも限らない。だから、櫛部は“親心”で山本唯に言った。

「『山の神』と言葉にするよりは、自分の力で強くなったのだから唯翔は唯翔で。自分のやりたいようにやれ。山本唯翔なんだ」

雨中でも昨年を上回るペースで箱根山中を快走

 1月2日の山本唯は舞い上がるどころではなかった。彼の大きな特長である、接地時間の長い足取りで山道を駆け上がった。まさに地に足がついていた。

 箱根山中は珍しく雨が降り、テレビのアナウンサーも「雨の5区は82回大会(06年)以来」だと伝えていた。冬の雨はランナーから熱を奪う大敵である。だから、レース直前、櫛部は指示を出した。

「タイムは考えなくていい。タイムじゃなく、自分の走りをしよう」

 ただ、山本唯は序盤から快調だった。塔ノ沢から上りに入っても、まるで平地を走るような腰の高さとピッチで軽やかにピッチを刻む。大平台、宮ノ下と続く急坂を耐えてからギアを上げていく。昨年は序盤のハイペースがたたって11km過ぎの小涌園前で筋けいれんが出てしまった。区間新記録を樹立したが、レースプランよりも30秒遅れたという。今年は違う。雨でも絶妙なペース配分で、小気味よくゴールに迫る。1年間かけた進化の証だった。

【次ページ】 クロスカントリースキーで鍛えられた足腰

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