「僕からは『お疲れさま』って話をして、芽吹からは『明日は任したよ』って。まだしっかり詰めれば追いつけると思ってましたし、とにかく明日は絶対に勝とうと。（9区までには）追いついてくると思っていたので、勝ちパターンのイメージはちゃんとしてました」

　しかし、イメージとは裏腹に、復路も厳しい展開となった。花尾は「状態は悪くなかった」と話すが、全盛期と比べると走りの力感が失われていた。

　青学大との差がさらに開く、苦しい走りとなった花尾に、沿道からたくさんの声援が飛ぶ。当日変更でエントリーから外れた前回も、「花尾くん」が一時ツイッター（現X）のトレンド1位になったが、今回も本人が驚くほどの歓声だった。

「ほんとすごく苦しかったんですけど、すごい幸せも感じたレースでした。自分たちはSNSができないので前回のことは知らなくて、妹にトレンド1位だったよって聞いたんですけど、その時に初めて自分ってすごい周りの方から注目されているんだなって感じて。こんな自分を応援してくれる方がたくさんいるっていうのが嬉しいですし、ほんと感謝しかないですね」

　終盤の給水ポイントでは、同じ鎮西学院高の後輩である宮川康之介（3年）から力水をもらった。横浜駅付近では、往路のメンバーが勢揃いして、花尾に声援を送ってくれたという。

最後の箱根駅伝を走り切った花尾（区間5位）　©Nanae Suzuki

最後の箱根駅伝を走り終えて

　最後の箱根駅伝は、花尾にとってどんなレースになったのだろう。

「結果は良かったとは言えないかもしれないんですけど、ここまで短期間で戻せるとは思っていなかったので。正直、あと1カ月くらい練習期間があれば……。でも、最後に箱根を走れたのは自分でも良かったと思います」

　区間5位。青学大との差を縮めることはできなかったが、精一杯の走りはできた。走り終えてすぐ運営管理車の方に向き直り、一礼して監督に「ありがとうございました」と伝えたのも彼らしかった。

　振り返って、この4年間に悔いはないのだろうか。

「もうずっと、それこそ入学前から『100回大会で優勝しよう』って口にしてきた学年だったので、それが叶わなかったのは悔しいですけど、それに向かって一生懸命やったことは無駄じゃなかったと思うんです。なにか一つのことに向かって、勝ちにこだわっていくというのは、なかなか体験できないことだと思うので。ほんとに良い経験をした4年間でした」

取材の最後に語った「4年生でやりたいこと」は？

　まだまだ聞きたいことはたくさんあったが、取材の打ち切り時刻が迫っていた。最後に、4年生でやりたいことを尋ねると、はにかんだようにこう話した。

「みんなで集まりたいなって思っているんですけど、なかなか予定が合わなくて。でも、最後はやっぱみんなで集まって、この4年間の思い出について語り合いたいですね」

　卒業後は、トヨタ自動車九州に就職。もちろん、陸上を続ける予定でいる。完全復活は次のステージで。笑顔の走りを、きっと多くのファンが待っている。