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「悔しいですけど…」それでも駒澤大・花尾恭輔が貫いた「笑顔を絶やさない」という信念…“仲間たちに愛された男”の箱根駅伝ラストラン秘話 

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小堀隆司

小堀隆司Takashi Kohori

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photograph byNanae Suzuki

posted2024/01/08 11:03

「悔しいですけど…」それでも駒澤大・花尾恭輔が貫いた「笑顔を絶やさない」という信念…“仲間たちに愛された男”の箱根駅伝ラストラン秘話<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

最後の箱根路を走り切った駒澤大・花尾恭輔(4年生)

 励ましは言葉だけではない。同級生の中でも特に仲が良い安原太陽は、走りで花尾を鼓舞した。8月に中国で開催されたFISUワールドユニバーシティゲームズ、5000mに出場した安原は銀メダルを獲得。激しく先頭争いをする姿に、勇気をもらったと花尾は話す。

「ちょうど故障期間中で、安原の頑張りがほんと嬉しくて。自分の中ですごく気持ちを前向きにさせてくれたレースなんです。すぐにLINEを送りましたし、帰ってきてからも『おめでとう』って。本当に良い同期に恵まれましたね」

1年前の“走れなかった箱根”

 その安原とは、前回の箱根駅伝でもこんなエピソードがある。

 7区を走った安原の、給水係を務めたのが花尾だった。2人は連れだってよくラーメンを食べに行くそうで、前日に安原は「(給水ボトルに)ラーメンを入れてきて」と冗談で話していた。

 それに対して、給水ボトルを手渡す際に、花尾はこんな言葉をかけたという。

「ごめん、スープ入れてくるの忘れたわ」

 安原はそのユーモアに吹きだしそうになりながら、うまそうに水を口にした。花尾が右手を振り上げ、マスク越しに「行けー」と背中を押す姿は、微笑ましくもあり、グッとくるものがあった。

 仲間思いの花尾は、それがゆえに仲間にも愛されるのだろう。

藤田監督「これは本人にも言っているんですけど…」

 今季、駒澤大が連覇を飾った出雲駅伝、全日本大学駅伝で、花尾はエントリーされるも、不出場。本来であれば確実に走れる選手を登録させるものだが、監督も選手も、駒澤大の3冠達成に欠かせない戦力ということで、あえて花尾を登録して奮起を促した。

 秋以降、花尾もその期待に必死で応えようとしてきた。急ピッチで脚作りをし、約7カ月ぶりの実戦復帰となった11月19日の上尾シティハーフマラソンで目標の1時間2分台をマーク。復調を強く印象づけた。

 この頃、藤田敦史監督は、花尾についてこんな話をしている。

「これは本人にも言っているんですけど、これだけ箱根に貢献(1年生の時から出場)してきた人間は、最後の箱根は走ってほしいじゃなくて走らないとダメだと。それくらいの自覚を持ってほしいという話をしています。本当に箱根に向けては花尾が復活できるかどうかが鍵になる。うちにとっての切り札ですね」

 花尾は間に合った。無事、エントリーメンバーに名を連ね、復路の9区を任された。

往路の夜、鈴木芽吹の部屋を訪れて…

 往路でまさかの逆転を喫した前夜、花尾はキャプテンの鈴木芽吹の部屋を自ら訪ねている。

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