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井上尚弥は「求められているものが高すぎる」長谷川穂積が同情する“4階級王者の大変さ”「判定だったらグダグダ言われて」「でも倒すからすごい」 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2023/12/29 17:02

井上尚弥は「求められているものが高すぎる」長谷川穂積が同情する“4階級王者の大変さ”「判定だったらグダグダ言われて」「でも倒すからすごい」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

4階級目のスーパーバンタム級でも4団体統一を成し遂げた井上尚弥。バンタム、スーパーバンタム、フェザーの元3階級世界王者・長谷川穂積はタパレス戦をどう見たか

「井上選手はずっと警戒心を持って戦っていました。攻撃面ではコンビネーションで攻めたり、右ストレートと右フックを組み合わせたり、いろいろやってましたけど、少し強引なところも垣間見えました。7月のスティーブン・フルトン戦は詰め将棋のように追い詰めて最後にバシッと決めた。ただ、今回は相手の防御も良かったので、力で倒そうとしているシーンがありましたね。そうなるのは、求められているものが高すぎるからだと思います。どんな状況でも倒さなくちゃいけない。今回の試合、4団体統一戦ですよ。それなのに判定だったらグダグダ言われてしまう。そんな状況で戦うんですから、本当に大変だと思います」

階級が上がれば相手の耐久力が上がってくる

 井上は常にノックアウトを期待されてきた。それは階級を上げても変わらない。ただでさえ倒すのは簡単ではないのだが、階級を上げればそのハードルはさらに高くなることを知ってほしい、とフェザー級まで上り詰めた元3階級王者は訴える。

「3階級だって階級の壁はすごくある。たとえば井岡一翔選手は4階級制覇王者ですけど、4階級目でなかなかKOができませんよね(タイトル獲得時から8試合で6試合が判定)。普通そうなるんですよ。階級を上げても人間の骨格は変わらない。でも階級を上げれば相手の骨格は大きくなります。だから倒せなくなる。それなのに井上選手は倒すからすごいんです。ただ、今回の試合でも少し感じましたけど、階級が上がれば相手の耐久力が上がってくる。ましてやフェザー級に上げると相手の耐久力はさらに上がる。そこでどうするか、という問題はいずれ出てくるのかな、と思います」

勝ちに徹したら…間違いなくフェザー級4団体統一

 古今東西、階級アップ自体は珍しいことではない。その場合、階級の上昇に合わせてスタイルを変えるボクサーは多い。同じようなスタイルでは上の階級で通用しないケースが出てくるからだ。

「相手の耐久力が上がると、倒すボクシングではなく、勝つボクシングが必要になってくる。たとえばフロイド・メイウェザーは階級を上げていって、徹底して被弾しない、勝つボクシングにシフトしていきました。試合は面白くなくなりましたけど、それができたから5階級制覇したし、一度も負けなかった。やっぱり倒すボクシングをすると、多少は被弾するんですよ。相手が大きくなれば、1発の被弾が命取りになることもあります。倒すことを宿命づけられている井上選手も、スーパーバンタム級ではいまのままでいいと思いますけど、いつか倒すボクシングと勝つボクシングを融合していくときが来るのかなと思うんです。もし井上選手が勝つボクシングに徹したら、フェザー級でも間違いなく4団体統一すると思います」

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