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「気がついたら勝ち星が…」16年前の新人王右腕がいま明かす阪神・岡田彰布監督の“秘術”…大竹、村上もブレークさせた「自信の効用」とは 

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酒井俊作

酒井俊作Shunsaku Sakai

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/12/29 17:00

「気がついたら勝ち星が…」16年前の新人王右腕がいま明かす阪神・岡田彰布監督の“秘術”…大竹、村上もブレークさせた「自信の効用」とは<Number Web> photograph by JIJI PRESS

2007年に新人王を獲得した上園

「やっている時は必死だったので、岡田監督がどう使ってくれるとか、あまり分かりませんでした。終わってから、いろいろ気づいたんです。中10日空けるとか、わざとジャイアンツ戦を外すとか。プレッシャーがかからない場面で、5、6回で代えてもらって、勝ち星をつけてもらいました」

 この年、高橋由伸や小笠原道大らを擁してシーズンで優勝した巨人戦では一度も投げさせなかった。岡田は星勘定しながら先発ローテーションを組むなかで、上園については、下位チームにぶつけることで、自信をつけさせる狙いがあった。

新人王を決めたマウンド

 野球選手はよく将棋の駒にたとえられるが、生身の人間であり、感情がある。監督の采配次第で、飛躍できるし、潰れることもある。だからこそ、繊細さが欠かせない。

 だが、プロ野球の監督でも「自信の効用」をおざなりにする用兵が意外に目立つ。先発要員と見込まれていたルーキー投手が開幕早々、チーム事情から救援に配置転換された時は、一貫していない育成方針が浮き彫りになった。また、剛腕だが未熟で制球に難があるセットアッパーを満塁のピンチで投入した時は、自信の芽を摘む悪手としか映らなかった。案の定、その選手は打ち込まれて、一軍から姿を消した。

 07年の上園は夏以降、着実に白星を重ねて巨人の金刃憲人と新人王を争うまでになった。本来は9月28日の中日戦(甲子園)がシーズンの最終登板だったが、7勝目を挙げて金刃と勝ち数で並んだ。

 すると、岡田は一計を案じた。先発要員のライアン・ボーグルソンの出場選手登録を抹消し、ベテランの下柳剛、安藤優也の先発を1日ずつ前倒し。上園にシーズン最終戦の先発機会を与えたのである。

 10月3日のヤクルト戦(神宮)の登板が決まったあと、上園はスポーツ新聞を読んでいて、JFKの一角である藤川球児の日本タイ記録(当時)となる46セーブ、久保田智之の90試合登板もかかった試合だと知った。同じ日に金刃も投げる。いろんなものを背負っていたが、腹をくくった。

「中4日で先発させてもらえるって、そういうことじゃないですか。チームの順位も決まった後でしたし、巨人の金刃選手の状況を見て、監督が使ってくれました。『新人王、獲ってこい』ってことでしょう」

「人生の恩人です」

 序盤から内角を突いた。上位打線と向き合った4回、ギアを全開にした。田中浩康、アレックス・ラミレスを三振に仕留め、この年、35本塁打のアーロン・ガイエルと対峙する。糸を引くような内角への直球の軌道をいまも鮮明に憶えている。

「インコースの真っすぐ、球審にはボールと言われたのですが、もう1回、同じところに投げられそうな感覚がありました。キャッチャーの野口寿浩さんも続けてくれて、同じところに投げ込めました」

 見逃し三振に抑え、3者連続三振。7回無失点の好投で、8勝目を挙げた。金刃との新人王レースを制した。

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