「本当にこれが駄目だったら終わりだと思っていましたから、決断するのが怖かった」

　だが、艱難辛苦しつつフォームが体に馴染んでいくと、徐々に知野に光明が射していった。

「一軍ではまだまだですけど、ボールがよく見えてフォアボールは増えましたし、ホームランもノーステップで打てることがわかりました。それに出塁率もOPSも上がって、本当いいことばかりだったんです。まだ取り組んで1年も経っていないので、一歩一歩進んで行って確実性を高めたいと思います」

昔のことを考えたら、圧倒的に幸せ

　やる気に満ちた表情で知野はそう語った。先ほども述べていたが、今は自分自身に存在意義を見出し、野球に明るく楽しく取り組むことができている。振り返れば、諸般の事情で高校を中退し、通信制の学校に進んだ後、諦めきれず独立リーグに挑戦し、プロへと進んだ紆余曲折の野球人生。まだ最高の結果を残しているわけではないが、ほとばしるようなエネルギーをもって、やれることを目一杯やっている。

「昔のことを考えたら、圧倒的に幸せですよ。まあ、生半可な気持ちで生きていないって自負はあるので、今の状況はうれしいというか、頑張ってきたなって」

新潟県三条市出身の知野。東京ドームの試合で佐渡のマスコットらと記念撮影　©JIJI PRESS

ギラギラだった知野の変化

　こうやって知野と膝を詰めてゆっくりと話をするのは、まだ一軍にも上がれずもがいていた2年目の終わり以来だった。当時の知野は、鋭利なナイフのような雰囲気を持っており、どこかぶっきらぼう。悪く言えば余裕がなく、自分自身に憤りを抱えているようだった。「あの時はガチでギラギラしていましたねえ」と伝えると、知野は笑った。

「いやまあ、今もギラギラしていますよ」

　少しだけ柔らかくなったが、あの時と変わりのない勝ち気な表情。この鼻っ柱が強そうな感じもまた知野の魅力である。

必要とされるのが幸せで、楽しくて…

　6年目の来季、知野にとって重要な1年になることは間違いない。走塁はもちろん、長打力が魅力の打撃においてもチームの重要なエンジンになれる可能性は高く、むしろさらに存在意義を示してもらわなければ困る。

「今年は後半だけでしたけど、必要とされるのが幸せで、楽しくて、もっと活躍したいと心底思ったので、来年はシーズンを通して『知野がいなきゃ駄目だ』と言われる存在になりたいと思います」

　新たにキャプテンに就任する牧秀悟や、今季ブレイクした山本祐大らと同じ98年世代。「同世代の仲間と一緒に頑張りたい」と、語る知野が、果たして来年はどんなインパクトを見せてくれるのか、今から楽しみだ。