小学生の藤井聡太はプロ相手に「意外と全然勝てなかった」師匠・杉本昌隆が振り返る、“将来の名人”豊島将之との初対局

posted2023/12/23 06:06

text by

杉本昌隆Masataka Sugimoto

photograph by

Keiji Ishikawa

　今年10月、将棋のタイトル八冠すべてを手中に収めた藤井聡太。師匠・杉本昌隆は、自信を持って小学生の藤井聡太をトップ棋士たちと対戦させた。すると……。著書『藤井聡太は、こう考える』(PHP研究所)より抜粋して紹介する。（全6回の6回目／初回は#1へ）

　かつて、島朗(あきら)九段、森下卓九段、三浦弘行九段をはじめ、豊島将之九段、中村太地八段ら、若手でもすでに第一線で活躍していた棋士の方々に、私は、まだ小・中学生だった藤井との対局をお願いしたり、対局の場をセッティングしてもらったことがあります。

　いわずと知れた錚々(そうそう)たる顔ぶれ。いずれも将棋界を代表する強豪や急成長する若手棋士です。それは、武者修行のようなものでした。

　ただ弟子の修業のためであれば、正直なところ相手の棋士の方々も、少々面倒な話だと思われる可能性は高く、図々しいお願いだったかもしれません。

　しかし、私には藤井少年を紹介して、興味をもたれる自信がありました。どの程度の潜在能力があるかは当然わかっていたので、積極的に動きました。

　藤井は、私のいわば秘密兵器。秘蔵の弟子をぶつけてみる、といったところでしょうか。

　対戦相手の棋士の反応を見てみたかったということもあります。そして相手棋士もきっと何か感じるものがあるだろうと。ただやみくもに、一方的に棋士の胸を借りる機会とするだけでなく、相手棋士と藤井、お互いのためによいことだと考えたのです。

　とりわけ豊島九段との対局など、どちらが勝っても面白いと思いました。弟子の藤井とはもちろん、同じ愛知県出身の豊島九段とも、当時私はよく研究会をしていたので、どちらの将棋も知っていました。そこで、この二人が戦ったらどのような内容になるのかと、楽しみに思う気持ちが先行したのも事実です。

1 2 3 NEXT