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微笑む廣瀬俊朗に「笑いごとじゃないぞ」とマジギレ…エディー・ジョーンズが明かす、日本代表を団結させた“ある引き金” 

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エディー・ジョーンズ

エディー・ジョーンズEddie Jones

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posted2023/09/18 17:03

微笑む廣瀬俊朗に「笑いごとじゃないぞ」とマジギレ…エディー・ジョーンズが明かす、日本代表を団結させた“ある引き金”<Number Web> photograph by AFLO

エディー・ジョーンズが率いるチームの初代キャプテンとなった廣瀬俊朗。真剣に彼の態度に怒ったエディーにはある計算があった

 ここ3年の間、私はそのことを強く実感してきた。近頃の若い選手といると、なにかしら彼らと気持ちが通じ合う感覚を得ることがある。誰でも、高校時代を振り返ったとき、教師との会話で思い出すのは、自分の心に響いたものではないだろうか。新たに自分自身と向き合い、何が自分を成長させ、変化させるのかを考えさせられたような言葉だ。また、現在のエリートスポーツの世界では、これまでと違う行動パターンが生じていると感じる。若い選手たちは感情を周りと共有することに喜びを感じるが、年長者はそれに抵抗がある。若者たちは感情を大らかに表に出し、弱さも隠そうとしない。コーチはそんな彼らの希望や恐れに近づく道を探さねばならない。

選手それぞれにあわせたアプローチ

 はっきりしたアクセス・ポイントが見つけにくく、最初は近づくのが難しい選手たちもいた。若いプロップ・フォワードのウィル・スチュアート(編集部注:イングランド代表)は、気持ちが読みにくかったが、ついに正しいアクセス・ ポイントを見つけた。彼は何より母を幸せにしたかったのだ。我々コーチ陣は、ラグビーを頑張れば母を喜ばせることができると彼に理解させた。

 チームは個々の人間でつくられている。選手たちは皆、それぞれ違う。しかし、彼らが大切にされていることを知ったなら、みんなと良い関係をわかち合える。そうすれば、彼らの個性に寄り添い、生き方を理解することも簡単になる。それは、選手たちが指導に対して最高の答えを出すことにもつながる。これは馬の訓練に似ている。ムチで打つのが必要な馬もいれば、背中を軽くポンポンと叩いてほしい馬もいる。手綱をきつく締めねばならない馬もいれば、自由に走らせたほうがよい馬もいる。どれも、馬を速く走らせるための手段だ。コーチは、選手が大切にされ、評価されていると実感させるために、同じことをしているのだ。

コーチから本当に評価されているという実感

 オーストラリアでコーチをしているとき、五郎丸にしたのと同じ手法をウェンデル・セイラーに対して使った。セイラーは存在感のある選手で、オーストラリアでは英国よりもはるかに盛んなラグビーリーグで長くトップスターだった。セイラーは、ジェームズ・ハスケルを彷彿とさせる。彼らのように個性の強い選手は、調子のいいときは自信たっぷりにプレーし、遊び心も大いに発揮する。しかし、少しでも傷ついたり、思うようにことが運ばなかったりすると、不安定になりがちだ。

 私はセイラーを、いくつかのあまり重要ではない試合でプレーさせた。パフォーマンスが悪いとき、セイラーは私から怒られるだろうと思っているようだった。しかし、私はあえて2、3日、彼と話そうとはせず、じらす作戦を取った。彼の疑念が最高潮に達したところで、話し合いの場を持った。私は彼を褒めたたえ、君はこの競技のスターだと言った。なぜ自分がこれほど愛されているかを、みんなに見せてほしいと言った。次の試合では、彼は素晴らしいプレーを見せた。彼に必要だったのは、コーチから本当に評価されているという実感だった。だが、それが得られず自己満足に終わっていた。そこで私は、彼の最高の側面を引き出すために、適切な方法で心理学的に働きかけたのだ。

<「五郎丸」編もあわせてお読みください>

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