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「私は五郎丸歩を寿司屋に呼び出した」エディー・ジョーンズが振り返る、若き五郎丸とサシで話し合った夜「さて、話を聞かせてくれないか」 

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エディー・ジョーンズ

エディー・ジョーンズEddie Jones

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/09/18 17:02

「私は五郎丸歩を寿司屋に呼び出した」エディー・ジョーンズが振り返る、若き五郎丸とサシで話し合った夜「さて、話を聞かせてくれないか」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

2015年ラグビーW杯での躍進に大きく貢献した五郎丸歩。エディー・ジョーンズは彼との関係構築に腐心したという

 しかし、問題があった。五郎丸は、代表に戻るのが嬉しくなさそうだったのだ。不満の原因は私だった。私が憎らしい外国人のため、彼はとてもよそよそしく、接触をことごとく避けていた。チームミーティングのときはいつも部屋の後方に座り、話し合いに進んで参加しようとはしなかった。少し離れたところでチームメイトと話すことはあったが、私が近づくとすぐに身を引いた。五郎丸にはチームの中心選手になりうる能力がある。壁を壊し、関係性を築かなければならなかった。

寿司屋の客は我々ふたりだけだった

 五郎丸とのアクセス・ポイントになる鍵は、愛国心だと思った。そこで、私は友好的な日本人選手たちを頼り、私の代わりに五郎丸と話すよう促した。五郎丸に、彼らの言葉でチームの構想を説明してもらったのだ。我々コーチ陣はメンバーのほとんどを日本人から選んで、はっきりとした日本スタイルのラグビーがしたかった。走ってパスを回すスタイルだ。それが日本人選手には向いている。時間はかかったが、五郎丸は我々の真意を徐々に受け入れるようになった。ミーティングで最前列に座り、話し合いに参加し始めたとき、私は彼も同じ船に乗る仲間だと確信した。

 それから3年が経過していた。五郎丸が泥のなかでのプレーを放棄した後、私は彼に近づくための別のアクセス・ポイントを探した。寿司屋の客は我々ふたりだけだった。私は普段とはまったく異なるアプローチを試みた。約1時間半、ただ食べながら、彼の家族の話をしたのだ。これは珍しいことだった。このような文脈で、家族の話題になることはめったにない。特に日本人選手は、社会での礼儀を重んじて、プライベートな話題には触れない傾向がある。けれど私はそれが、五郎丸の感情に訴える鍵だと感じた。彼の家族のことで会話がはずんだ。心を開いて楽しんだ。

もはや、私から言うべきことはなかった

 ふたりとも、このミーティングの目的を完全に忘れていた。私はパソコンとノートを脇に置いたままにしていた。それも私のちょっとした演出だった。食べ終わると私は言った。

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