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トム・ホーバスの「厳しい練習」は、日本人がやりがちな「根性練習」と何が違う? 日本代表を勝たせた外国人“鬼コーチ”が直面した日本の課題
posted2023/09/02 11:03
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Getty Images
“自信”を植え付けるためのハードワーク
エディー・ジョーンズ(以下、EJ) 今日はお話しできるのを楽しみにしていました。オリンピックでの成功、おめでとうございます。フィジカルで劣る日本が、あれだけの戦いを見せたことは本当にファンタスティックでした。それに、男子代表ヘッドコーチの就任が決まったそうですね。
トム・ホーバス(以下、TH) そうなんです。私はチャレンジが好きなんです。「男子をコーチした経験がないじゃないか」という声も聞こえてきますが、そんなの関係ない(笑)。バスケットボールはバスケットボールであり、コーチングとは人間との関係性を築くことに変わりはありませんから。
EJ その通りですね。競技は変わらないし、人間を成長させるプロセスも変わりませんから。
――どうやらこの対談に、司会は必要なさそうですね。
EJ まあ、そう言わずに(笑)。いろいろ調べてみると、トムが選手たちに「信念」を植えつけていたことが分かってきました。なぜ、日本があれだけの結果を残せたのか、トムの哲学を一刻も早く聞きたくて。
TH 高さとフィジカルで劣る日本が勝つにはどうすればいいのか? どの国よりも準備をし、どの国よりも練習をする。これに尽きます。2015年のW杯で南アフリカを倒したエディーさんも同じ考えではないですか?
EJ まったく同感です。我々独自のスタイルを構築し、それを実行するために前例のない長期合宿を行ったことで、あの結果が生まれたのです。
――早朝5時からのフィジカルトレーニング、通称「ヘッドスタート」も当時話題になりました。それまでの日本にはない発想でしたから。
EJ その通りですが、それは表面的なことです。メディアは表層的なことにとらわれがちです。たとえば、朝5時に行う練習で選手たちの信念を醸成することはできません。きっと、トムは信じるに足る代表の強みを見つけていて、それを掘り起こしたのではないかと想像していたんです。
TH 私は2016年のリオデジャネイロ五輪ではコーチを務めていました。あのチームも実力はあったのに、準々決勝で敗れてしまった。もっと上に行けたのに、なぜそこで敗退したのか原因を探っていくと、格上のチームを倒すだけの自信を欠いていたことが見えてきました。
EJ 選手たちに自信を植えつけるために、ハードワークを課したのではないですか?
TH その通りです。自分たちが到達できると想像していない領域まで彼女たちを追い込むと、それをクリアしてくれました。当然、それは自信につながっていきますし、オリンピックを迎える時点で、世界中のどの国よりもハードな練習をしたことが選手たちの自信を生んだのです。