1番・丸田湊斗、2番・八木陽に連続安打を浴び、1アウト一、三塁。リードする捕手の大城はこう反省を口にする。

「蒼の球自体は変わっていなかったと思う。ただ、僕が応援にペースを崩されて、配球が単調になってしまった。そこまでは変化球をうまく使っていたのに簡単に行き過ぎました」

東恩納の前に、5回までほぼ完璧に抑えられていた慶応ナイン ©Hideki Sugiyama

「ライトとも会話ができない感じで…」

　ここで、また一段階、慶応の応援の出力が上がる。そして、東恩納は、続く3番・渡辺千之亮に対して、この日初めてとなる四球を与えてしまう。

　大城は、東恩納は「変わっていなかった」と話したが、このあたりから、そこまでほぼ完璧に繰っていたボールが微妙に浮き始めた。

　センターからエースの背中を眺めていた知花慎之助は、微妙な心の揺れを感じていた。

「ランナーが出て、聞いたことのないような大歓声になった。ライトとも会話ができないような感じで。あそこで少し、変わってしまったのかな」

　1アウト満塁のピンチ。本来、ここからが東恩納の真骨頂のはずだった。普段、東恩納はチームで1、2を争うほどのおしゃべりだが、マウンドに立つと別人になる。そして、大城いわく「ランナーが出ると、ギアが入るというか、球が強くなる」という。

　その変貌ぶりが「ミスターゼロ」たるゆえんだった。

東恩納に生じた「狂い」の正体

　ところが、満塁から4番・加藤右悟に投じた東恩納の初球のストレートがまたしても高めに浮いた。加藤がジャストミートした打球は、左中間を深々と破って行く。

　2−3。

　加藤の一打は走者一掃の2ベースとなり、一気に逆転を許した。そこから、さらに連打を浴び、2−5とリードを広げられたところで、東恩納はマウンドを降りた。

慶応の猛攻。東恩納をマウンドから引きずり下ろした ©Hideki Sugiyama

　いつもと何が違ったのか。東恩納は、こう声を絞った。

「抑えたいという思いが強く出過ぎました」

　狂いは東恩納の手元にも生じていた。

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