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暴力指導、昭和の常識を変えよう!“日本一3回の少年野球クラブ”監督が猛省した保護者のアンケート「世界一楽しくと言っていますが…」

posted2023/07/17 17:00

 
暴力指導、昭和の常識を変えよう!“日本一3回の少年野球クラブ”監督が猛省した保護者のアンケート「世界一楽しくと言っていますが…」<Number Web> photograph by KANZEN

「多賀少年野球クラブ」の監督が考える少年野球の問題点とは?

text by

辻正人

辻正人Masato Tsuji

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KANZEN

「野球離れ」が叫ばれる昨今にあって、部員が急増する“楽しい野球”を追求し、大会でも三度の日本一と結果を残している少年野球クラブがある。“怒鳴る指導”や保護者の「お茶当番」など少年野球の問題にも触れた『多賀少年野球クラブ 『脳(ノー)サイン野球』で 子どもの考える力と技術が自然に伸びる! ―楽しさと勝利を両立する育成法』(カンゼン)から一部転載します(全3回の1回目/#2#3も)

 私たちが子どもの頃、男の子の選択肢は野球以外ほとんどありませんでした。公園や空き地で仲間と集まって野球をして遊び、小学校高学年になると野球チームに入るのが自然でした。

 当時は両親が共働きで、父親は土日も仕事をする家庭が一般的でした。兄弟も多いため、親が1人1人の子どもにかけられる時間が少なく、家庭で挨拶や礼儀を教える余裕もありません。

 親が仕事をする時間や土日にたまった家事を済ませる時間、さらには幼い子どもの面倒を見る時間を捻出するため、小学生の子どもを預ける場所が少年野球チームでした。すごく野球が好きだからチームに入るというより、親の都合でチームに入ってから野球が好きになるケースの方が多かったと思います。

「言うことを聞かなかったら遠慮なく…」

 親は監督やコーチに「うちの子が言うことを聞かなかったら、遠慮なくしばいてください」と言っていました。少年野球チームは、子どものしつけの場として需要があったわけです。その名残が平成、さらには令和になっても消えず、野球の技術指導よりも礼儀を重視するチームがあります。いまだに怒声罵声、暴力による指導が残っているのは、こうした成り立ちや背景があるからです。

 指導者の徹底管理のもとで育った選手は、指示に対して従順に動く人間になります。昭和の時代は、決して悪いことではありませんでした。高度経済成長期やバブル期は、指示されたことを真面目にこなし、体力と精神力に長けた人材が社会で求められていました。野球チームは人材育成に大きく貢献していたのです。

 しかし、時代がIT、AIに変化していく中、社会で活躍する人材は変わってきています。企業が必要としているのは、単純作業を根気強く続けられる人や指示通りに動く人ではなく、自ら判断して行動する人です。少年野球もサインで選手を動かす時代から脱却しなければいけません。単純作業は人間から機械に代わり、従順な子どもの育成は社会で求められていません。この傾向は今後、さらに強くなっていくと予想しています。

 私は1日8時間働けば決まった給料がもらえる現在の仕組みが、日本でも能力に応じた年俸制に変わっていくと予想しています。これからは8時間働いた結果、どれだけの成果を上げたのかが給料に反映される時代が一般的になると確信しています。その時、子どもの頃に少年野球を通じて考える力や自主性を身に付けた人が活躍していれば、野球離れに歯止めをかけられるのではないでしょうか。

【次ページ】 なぜ選手にサインを出すことをやめたのか

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