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「“無敗の怪物”井上尚弥は天才ではない…」なぜ父親はずっと否定的だったのか? 13年前、井上尚弥が日本人ボクサーに“最後に負けた日” 

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前田衷

前田衷Makoto Maeda

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posted2023/07/23 11:02

「“無敗の怪物”井上尚弥は天才ではない…」なぜ父親はずっと否定的だったのか? 13年前、井上尚弥が日本人ボクサーに“最後に負けた日”<Number Web> photograph by Getty Images

プロ24戦24勝無敗(21KO)の井上尚弥30歳。スーパーバンタム級へ階級を上げ、王者フルトンとのタイトルマッチ(7月25日)に臨む

 試合は海外の多くのメディアが2019年のベスト・バウトに選ぶほどの激闘となった。初めて受けたダメージがその後のボクシングにどんな影響を及ぼすのか懸念されたが、最新のモロニー戦を観る限りこれは杞憂だったようだ。

アリやハグラー級の「異名」に

 ところで、井上の今日の成功はもちろん本人の実力とこれを支えた「チーム井上」の努力の賜物だが、それとは別にビジネス面では大橋による「モンスター」のネーミングと、「YouTube」が寄与したというのが筆者の持論である。

 かつて日本のチャンピオンたちはほとんど国内で戦ったため、海外ではなかなか評価されることがなかった。しかし今はYouTubeのおかげで、世界中のファンが試合映像を観ることができるようになった。ナルバエス戦の映像は瞬く間に世界中に広まり、これが大きな衝撃を与え、日本のモンスターが一躍注目されることになった。

 米国リング誌などのボクシングメディアのパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングに名を連ね始めたのもこの頃である。

 YouTubeは誰にも武器になり得る。いまや世界の強豪たちがYouTubeを観ながら、打倒井上を研究しているに違いない。いつか攻略法をマスターする選手が現れないだろうか。以前これについて聞いたことがあるが、「自分はまだまだ進化できると信じている」と答え、「そうでなければやってられません」と続けたものだ。

 前出の林田は今の井上について「負けるパターンが見つからない」と絶賛したが、同意する人がほとんどだろう。だが当の本人は大橋会長に「負けたら、またやって勝てばいい」と語っている。これも凄いコメントだ。

 いまモンスターは27歳。結婚して2児の父となったことも、精神的な成長を促したと思える。いまや「モンスター」の異名はすっかり知れ渡った。「グレーテスト」と言えばアリ、「マーベラス」と言えばハグラーの代名詞のように、いつか井上の「モンスター」も世界的に定着するかもしれない。

(初出:Number 2020年11月19日発売/本文中の肩書、年齢などは当時のものです)

井上尚弥Naoya Inoue

1993年4月10日、神奈川県生まれ。プロ6戦目でWBC世界ライトフライ級王座獲得。2018年WBA世界バンタム級王座を獲得し3階級制覇。2022年12月、バトラー戦に勝利して4団体統一王者に輝いた。24戦24勝(21KO)

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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