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「井川は20億、オレは日給7000円で…」“戦力外通告ピッチャー”はなぜ公認会計士になれた? どん底人生を救った阪神時代の「野村ノート」 

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栗田シメイ

栗田シメイShimei Kurita

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photograph byL)JIJI PRESS/R)Shimei Kurita

posted2023/06/27 11:01

「井川は20億、オレは日給7000円で…」“戦力外通告ピッチャー”はなぜ公認会計士になれた? どん底人生を救った阪神時代の「野村ノート」<Number Web> photograph by L)JIJI PRESS/R)Shimei Kurita

元プロ野球選手としては初の公認会計士に転身した奥村武博さん(右)。現役引退後に恩師である野村克也の言葉を思い出した

 その理由の1つに考えているのが、日本と海外のスポーツ文化の違いだという。たとえばカレッジスポーツが盛んなアメリカでは、シーズン毎に複数のスポーツを掛け持ちすることも珍しくない。だが、日本の場合は1つのスポーツに集中することが長年美徳とされてきた節もある。指導者の考え方に柔軟性が必要だ、と奥村は指摘する。

「柔道の金メダリストの松本薫さんとお話をした時、『柔道では試合や練習時間が短い。そのため短期の集中力を鍛えるトレーニングをする』とおっしゃっていて。引退後はアイスクリーム屋さんの仕事をしていますが、8時間集中することがなかなか難しいと話されていた。プロバスケットボールで公認会計士試験に合格した岡田優介さんは、もともとデータをすごく重視した考え方をする方で、現役当時から確率が高いプレー選択を行っていました。なのに、学校の数学はみんな嫌いだ、と言うんです(笑)。そこまで数字と向き合っていたのなら、それを仕事に活かせるはずなんです。

 複数のスポーツに触れてことで、裾野を広げることがより大切だと考えるようになりました。それをミックスすることは、メインのスポーツにも必ず活かせる。実際に、野村さんも選手を競輪学校に通わせたり、キャンプではクラシック音楽をかけて練習をするなど実験的なことをされていましたから」

デュアルキャリアの重要性

 公認会計士の仕事と並行して、奥村が精力的に取り組んできたのが“デュアルキャリア“という概念を浸透させるということだった。現役のアスリートでありながら、競技以外の取り組みも行う。『「人」としての人生を歩みながら「競技者」としての人生を歩む』とも評されるこの考えは、言うは易しだが実際に行うとなるとハードルが高い。だが、奥村は日々のトレーニングの中にその答えは詰まっているはずだ、と考えている。その気づきのため、視野を広げる要素として、複数のスポーツやスポーツ以外の視点を持つことが重要だ、と。

 そんな持論を形にするため、2017年には一般社団法人「アスリートデュアルキャリア推進機構」の代表理事に就任した。多忙な毎日の合間を縫い、自身の経験を講演で語り、引退後のアスリートへ直接伝える活動も行っている。自身の歩んできた特殊なキャリアが普遍性を持ちうると考えているゆえ、聞き手には説得力をもってきた面もある。それは数多くの“失敗“を重ねてきた奥村だからこそたどり着いた境地なのかもしれない。

【次ページ】 失敗を改善する「究極は大谷翔平」

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