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「怪物を生む高校」花巻東が岩手の高校野球を激変させていた…菊池雄星、大谷翔平と戦った男たちが証言「なぜ岩手は“急激に”強くなった?」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byAFP/JIJI PRESS
posted2023/06/27 11:02
現在メジャーで活躍する菊池雄星と大谷翔平は同じ花巻東の出身だ
「低めのボールだと思っていた球が、ギュイーンってストライクゾーンまで伸びてくるんです。ちっちゃい頃から見てはきましたけど、やっぱり、決めに来た真っすぐは絶対に打てないなって思いましたね」
盛岡一は「勝てるなら1対0だ」と睨んでいた。達朗の磨いてきた投球術と、「イニングの先頭バッターだけは絶対に抑える」というプランが奏功し無失点を重ねる。打線も4回に達朗のヒットなどで1点を先取。高めに甘く入ってきたボールを見逃さない積極的な姿勢が生んだ得点だった。
ところが7回、優位に試合を進めてきた盛岡一が乱れた――いや、乱された。それまで封じてきた先頭にヒットを許し、エラーも絡んで三塁まで進まれた。花巻東の抜け目ない走塁によって「バタバタしてしまった」と振り返る達朗は、その後、ピンチを広げ雄星のスクイズで同点。直後に勝ち越しタイムリーを浴び、沈んだ。
「修羅場をくぐってきたチームは違うなって。結果は1対2なんですけど、その1点がものすごく大きな差に感じました」
「岩手でもできるんだ。俺たちでも…」
岩手を制した花巻東は、県勢としては達朗のいる盛岡一の前身となる盛岡中が1919年に進んで以来の甲子園ベスト4と躍進した。
この夏、彼らが掲げていた合言葉がある。
岩手から日本一。
それが夢ではないと実感していたのは花巻東の選手たちだけではなかった。達朗の言葉は、今も豊かな色彩を帯びている。
「『岩手でもできるんだ。俺たちでもできるかもしれない』って、みんな思ったはずです。岩手の高校野球の心を変えてくれたのは、間違いなく花巻東と雄星です」
菊池雄星の出現。全国と互角以上に渡り合った花巻東のインパクトは、盛岡大附の関口にも大きな自信を与えた。
「『野球をしっかりと成熟させられれば、花巻東に勝った時に甲子園でも勝てるんじゃないか』って思わせてくれましたよね」
新たな怪物の出現
そんな期待を膨らませていた2010年。盛岡大附の進化が問われるような逸材が、また花巻東で誕生した。
「うわぁ……またこんな怪物と3年間、付き合わないといけないのか」
その怪物とは、雄星たちの世代に憧れて入学したと言われる大谷翔平だった。
〈つづく〉