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井上尚弥は「とてつもないボクサーでした」完敗を喫した銀行員ボクサーの証言「リングを降りる時に感じたのは…」〈4団体統一王者の予兆〉 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph byGetty Images

posted2022/12/14 17:15

井上尚弥は「とてつもないボクサーでした」完敗を喫した銀行員ボクサーの証言「リングを降りる時に感じたのは…」〈4団体統一王者の予兆〉<Number Web> photograph by Getty Images

2017年9月9日、アントニオ・ニエベスにTKO勝ちを果たして6度目のWBO世界スーパーフライ級王座防衛に成功した井上尚弥

 文字通りの完敗を味わい、限界を思い知らされたように思えたニエベスだったが、今もまだボクシングのキャリアを諦めていない。井上戦の後も4戦を行い、3勝1敗。5月21日には故郷クリーブランドで約2年半ぶりの試合を行い、それまで10戦全勝(6KO)だった選手に判定勝ちを収めた。

 現在35歳のニエベスは、この10年近くPNCバンクで働きながら選手生活を続けており、アメリカでも珍しい“銀行員ボクサー”だ。妻、2人の子どもとの生活自体は保証されている。それでも朝5時半からロードワークをこなし、9時に出勤、仕事後の夕方からジムワークというハードな日々を継続している。こうして現役を続けているのは「まだ向上できる、またタイトルに挑戦したい」という渇望ゆえであり、その背後にあるのは井上と戦った経験なのだという。

「これ以上のボクサーと戦うことは二度とない」

「アマチュアでも、スパーリングでも、あれほどのボクサーと対戦したことはありませんでした。世代に一人現れるかどうかという選手でしょう。井上に負けてリングを降りる時に『これ以上のボクサーと戦うことはもう二度とない』と感じたんです。階級最高の選手と戦い、多くを学びました。その経験があるから、あの試合の後はより自信を持ってリングに立てるようになったんです」

 今後、目標とする世界タイトル再挑戦が叶ったとしても、その際に対戦する王者が井上以上の選手であることはあり得ないのだろう。だからこそ、怖いものはなく、自信を持って戦うことができる。“モンスター”と小さなリングの中で戦った記憶は、ニエベスの人生の中で貴重な財産であり続けるのかもしれない。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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