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「小学生のころはお父さんも選手で一緒に練習」井上尚弥の才能はどんな環境で磨かれたのか?「飢えたような目」をした父と歩んだ少年時代

posted2022/06/06 11:00

 
「小学生のころはお父さんも選手で一緒に練習」井上尚弥の才能はどんな環境で磨かれたのか?「飢えたような目」をした父と歩んだ少年時代<Number Web> photograph by Masashi Hara/Getty Images

2014年4月6日、井上尚弥はプロ6戦目(当時日本最速)でWBC世界ライトフライ級王座を獲得。父・真吾トレーナーと肩を組んで喜び合う

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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Masashi Hara/Getty Images

日本史上最速、わずか6戦で世界のベルトを腰に巻いた。幼い頃、父の背を追ってボクシングを始めた若き王者は、いかにして育てられ、その才能を開花させたのか。アマ時代の挫折、そして揺るがぬ信念を父子が語った。6月7日に行われるノニト・ドネア選手との再戦に合わせて、井上尚弥選手が初めて世界タイトルを獲得した2014年の雑誌Numberの記事で無料で公開します。(全2回の1回目/後編へ)
<初出:Sports Graphic Number 2014/7/15臨時増刊号(2014年7月8日発売)、年齢・肩書などはすべて当時>

 井上尚弥が日本最速となるプロ6戦目で世界タイトルを獲得してから2カ月半。6月23日、都内で開かれた初防衛戦発表記者会見には、多くのメディアが詰めかけた。

 スーツに身を固めた井上は少し緊張した面持ちでマイクを握った。

「9月5日に初防衛戦が決まって気合いが入っています。しっかりウエート調整をして、何もさせずに勝ちたい」

 挑戦者は同級15位、サマートレック・ゴーキャットジム。無名のタイ人が相手と知って、多くの記者が井上の勝利を確信したはずだ。それは4月6日、メキシコの前王者アドリアン・エルナンデスを粉砕したファイトの残像が、いまだに脳裏に焼き付いていたからに違いなかった。

チャンピオンのプライドを蹂躙した「別次元の衝撃」

 井上が世界タイトルを獲得した衝撃は、並みの戴冠劇とは別次元のものだった。かつてこれほどチャンピオンのプライドを蹂躙し、器の違いを見せつけてベルトを奪い取った日本人チャレンジャーは記憶にない。それほど圧倒的な試合内容だったのである。

 井上は4度の防衛を誇るチャンピオンを初回から子ども扱いした。左でしっかり距離をコントロールし、巧みなコンビネーションブローを次々と打ち込んだ。初回の攻防を見るだけで両者の実力差は明白だった。

 井上本人はこの圧勝劇を「十分にあり得た結末」と受け入れている。

「正直なところ、5、6回以外はパーフェクトすぎたと思います。(減量の影響で足が動かなくなった)5、6回は相手の土俵に入ったけど、打ち合いが苦手なわけじゃないですし、そのための練習もしていましたから」

【次ページ】 名トレーナーの証言「よく覚えているのは尚弥よりも…」

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