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井上尚弥と「150ラウンド以上」実戦した“真面目すぎたボクサー”…今も悔やむ“土下座した最後のスパーリング”「現役17年。彼に生かされた」 

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森合正範

森合正範Masanori Moriai

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photograph byMasakazu Yoshiba

posted2022/12/13 17:01

井上尚弥と「150ラウンド以上」実戦した“真面目すぎたボクサー”…今も悔やむ“土下座した最後のスパーリング”「現役17年。彼に生かされた」<Number Web> photograph by Masakazu Yoshiba

「怪物・井上尚弥と最も拳を交えた男」黒田雅之。今年現役引退を発表した

引退後に漏らした“本音”

 今年1月、延期された再起戦でプロ4戦目の新鋭に敗れた。左腕はもうボクシングができる状態ではなく、グローブを吊す決意は固まった。

 42戦30勝16KO9敗3分け。日本2階級制覇チャンピオンとなり、合計8度の防衛を重ね、世界王座に2度挑んだ。アルバイトはファミレスからコンビニに変わり、2年前の33歳のときから介護施設で働き始めた。

「これまで何度か引退しようかなと思っても、続けられたのは彼とのスパーリングが大きいです。他の世界王者はここまで強くないだろうという思いがあったので」

 そこまで言うと、フーッと息を吐き出した。

「現役17年。彼に生かされた、長生きさせてもらいました。彼とやっていなかったら、日本王者の2階級制覇もなかったし、2度目の世界戦もなかった。もっと前に引退していたと思います。だけど、一番スパーをやった人間が世界王者になっていないのは、彼に失礼ですよね」

 井上を懸命に追いかけ、挑み、闘い続けた。

“怪物と最も拳を交えたボクサー”

 その称号に感謝をしつつ、だけど、抗い続けてきたボクシング人生だった。

「結局、彼が主語になっているんです。そう言われるのは分かるんですけど、そこで満足してたら未来はない。ボクサーならやっぱり自分が一番でいたい。黒田雅之が一番上に来ないといけないんです。ボクサーとしては払拭したかったんですよね……」

 その精神は井上から学んだものでもあった。長く対峙したからこそ、分かることがある。

「彼はすごくハングリー。強くなることへの『飢え』が現役の誰よりもあると思います。プロとしての向上心や一番になる気持ち。ボクシングを辞めたとしても生きる上で必要な精神だと思うし、僕もずっと持ち続けていたいです」

 晴れやかな表情だった。

 井上との日々は終わった。黒田はきっと新たな目印を見つけ、それに向かって全力で走っていくのだろう。

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「あばらや鼻を折られた者もいた」井上尚弥とのスパーリング拒否続出も…なぜ“元日本王者”は恐れなかったのか「殴られっぱなしでは嫌でした」

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