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大谷翔平らMLBで当たり前「最新データ分析開示」日本は課題あり? 「否定的なコーチや選手は減ってきましたが…」アナリストに聞く
 

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間淳

間淳Jun Aida

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photograph byNanae Suzuki

posted2022/11/01 11:02

大谷翔平らMLBで当たり前「最新データ分析開示」日本は課題あり? 「否定的なコーチや選手は減ってきましたが…」アナリストに聞く<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

大谷翔平が、ベンチの中で打撃内容などの分析をしているシーンを目にすることも多い

 2012年につくられた米国の「ドライブライン」は現在、データ計測や分析、動作解析だけではなく、選手の育成や発掘の場にまでなっている。データを分析するアナリストの知識や技術は重宝され、球団に“ヘッドハンティング”されることも珍しくない。それだけデータの必要性が認知され、人材が育成されているのは、質の高いデータがオープンにされている環境と無縁ではない。

データ活用のスピード感、違いは「監督の役割」にも?

 データ活用のスピード感に日米で違いがある理由には、「監督の役割」も考えられる。日本では選手の起用や獲得に、監督が強い決定権を持つ。一方、米国にはチームを編成するGMがいる。2000年代前半に黄金期を築き、書籍や映画にもなった「マネーボール」で知られるアスレチックスは、GMの意向がチームに色濃く反映された最たる例と言える。GMに就任したビリー・ビーン氏は盗塁や犠打を否定し、出塁率や長打率を重視。統計学で選手を評価してチームに革命を起こした。

 森本氏は「米国はチーム作りや戦術の最前線にデータがあると感じます。チーム方針としてデータ重視を明確に示しているので、選手の意識も高くなります」と話す。選手もデータを読めなければ出場機会を失うと理解しているため、アマチュアやマイナー時代からデータの活用法を学んでいる。

 米国のスポーツ界には、「データコーディネーター」という仕事もある。アナリストと、現場を指揮する指導者の間に入る役割を担う。データにアレルギーがある否定的な指導者には、アナリストが直接説明するよりも、指導者とアナリスト両者の立場や考え方を知るデータコーディネーターが入った方が、円滑に現場へのデータ導入を進められるためだ。これも、米国でデータが重要視されている証といえる。

「どこかに1つだけ問題があるわけではありません」

 日本では野球に限らず、既存のものを変えることへの抵抗が強い傾向にある。そこには、新しい価値観が生まれると、現在の自分の役割やポジションを失う危機感や、これまで積み重ねてきた経験や知識が否定される不安が見え隠れする。森本氏は言う。

「日本でデータ活用の浸透に時間がかかっているのは、アナリスト、指導者、チーム、組織など、どこか1つにだけ問題があるわけではありません。アナリストにはデータ分析のノウハウだけではなく、データを正しく理解して活用してもらうために、現場やチームを知る必要があります。立場が異なる人たちのコミュニケーション不足で、本来は有効なはずのデータ自体が否定されることがないようにしないといけません」

 全てを米国に倣う方法が正解とは言えないだろう。しかし、日本球界でデータが十分に活用されているかを問われれば、疑問が残る。森本氏は新しくスタートした「NEXT BASE ATHELETES LAB」を「ドライブラインを超える施設にしたい」とビジョンを描く。米国のデータ分析が5年、10年の月日で大きく変わったように、“日本版ドライブライン”の誕生が日本球界の転換期になるかもしれない。

<#1からつづく>

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