「フィジカルといっても、ウェイトをガンガンやるとか、そういうんじゃないんです。滑らかな動きが欲しかったのでピラティスにチャレンジしたり、いまは『アニマルフロー』といって、動物の動きを真似するエクササイズを取り入れています。なので、自重トレーニングで十分。自分の体の変化を実感できるので楽しいですよ」

　そんな安間に目を留めた指導者がいた。

　女子日本代表のヘッドコーチ（HC）だったトム・ホーバスである。

　ホーバスHCはPGに自分で打開できる能力を求めた。チームが苦しい状況に陥ったとき、3ポイントをねじ込んだり、ドライブで点が取れるPGを重用していた。つまり、トヨタ自動車で成長した安間のプレーは、ホーバスHCが求めていたものに近かった。

　それまで日本代表のPGの一番手は本橋菜子（羽田ヴィッキーズ）だったが、本橋が膝のケガで先行きが不透明となり、PGのポジション争いは「ワイドオープン」、開かれたものになった。

「それまで、東京オリンピックは自分には縁がないものだと思っていました。それが合宿に呼んでいただき、自分にも出場できるチャンスがあるんだなって感じました。実際、最初の合宿ではめっちゃ調子が良かったです」

トム・ホーバス前HCのもと、東京五輪に向けた日本代表に呼ばれるようになった（写真は2022年）　©Getty Images

ギリギリでの落選「1週間、何もできなかった」

　ところが合宿が進むにつれ、安間の存在感はフェイダウェイ、徐々に薄れていってしまった。なにがあったのか？

「日本代表には素晴らしいプレーヤーがたくさんいます。どういうわけか、『自分は周りを生かさなくちゃいけない』と思い込むようになり、自分のプレーがどんどん小さくなっていきました。そうなると焦りも出てくるし、ミスを怖がる気持ちも出てきます。なんだか、トヨタに入って1、2年目の自分を再現してしまってる感じでした」

　トヨタ自動車でつかんだ積極性とスキルが影を潜めた。2021年のオリンピックが近づくにつれ、自分のポジションが厳しいものであることを嫌でも実感せざるを得ないようになる。

「つらかったです。『落ちるのは自分だろうな』と予感はしていました」

　合宿に参加していた16人のメンバーの内から、銀メダルを獲得することになる12人のメンバーが発表されたのは昨年7月1日のことだった。PGで選ばれたのは本橋、町田瑠唯、宮崎早織の3人である。

　その発表の数日前に、安間はコーチたちとの面談に臨んでいた。

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